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DATUMS 1991.06
豊かさを見直す「クラインガルデン」

犬塚 裕雅  (株)社会調査研究所



  経済大国日本の別の横顔、生活貧国。働いていても生活にゆとりある豊かさを感じない人々が多い日本。資産を持つものと持たないものとの格差が大きく広がっている日本。昨今、そうした状況を背景に「豊かさの価値基準」が揺らぎ始め、ゆとりや潤いや安らぎをキーワードに自分の住む地域の中に豊かさを見つけようとする人が現れてきた。
  身近な地域の暮らしの中に発見する豊かさ、それがクラインガルテンである。クラインガルテンはドイツにある市民農園のこと。150年以上の歴史があり、時代によりその役割や性格は変化してきた。現代におけるクラインガルテンは都会に住む人々の緑のコミュニティである。クラインガルテンを通じて、人々は自然と交歓し、家族や利用者仲間とコミュニティをつくる。ドイツではクラインガルテンを都市計画、及び社会政策の重要な項目として法律で位置づけ、高い公益性を与えている。最近、日本でも市民農園促進法ができ、市民農園の制度化が始まったが、ドイツはそのずっと先を行っている。
  クラインガルテンは一区画が約300?、畑や芝生や花壇がつくられた区画にラウベ(小舎)が建ち、生け垣や樹木できれいに囲まれ、100区画ほどでひとつの大きなクラインガルテンの団地をつくる。団地内にはクラブハウスと広場があり、人々の交流の場になっている。初夏の頃からクラインガルテンの季節だ。週末になると利用者は自宅近くにある自分のクラインガルテンで行く。濃くなった芝生、色鮮やかな花壇、実をつけ始めた野菜などの手入れ、ラウベのテラスで日光浴、クラブハウスで仲間たちと飲むビールなど、思い思いに一日を過ごす。また、利用していない人も公園の代わりに園内の散歩を楽しみ、利用者との歓談に興じる。そんな緑のコミュニティであるクラインガルテンが街中に計画的に建設され、利用者組合で自主管理されている。
  ドイツの人々は、効率一点で殺伐となりがちな都市生活に緑と土の香りのクラインガルテンを持ち込むことで、潤いと安らぎ、人々の温もりのある暮らしに転換させている。身近な暮らしの中に豊かさを生み出すことがクラインガルテンの哲学である。
  日本でもまちづくりや農地再生、余暇開発などにクラインガルテンが話題になっている。しゃれた農園付き別荘で売り出すディベロッパーもある。今後いろいろな形態が出てこよう。だが、クラインガルテンの哲学を忘れまい。ドイツと日本、その歴史や生活文化、法制度の違いがあるにしても、クラインガルテンの哲学は共有できるはずだ。クラインガルテンは、私たちに家族、仕事、余暇、地域、環境、など広範にわたり、新たな「豊かさの価値基準」を創造する重要な手がかりを提供してくれる。そのクラインガルテンに注視し、日本で根付くことを期待したい。

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