[BACK]
DATUMS 1992.10
「アメリカ障害者法」からみた日米の交通機関と観光

斉藤 明子  全国自立生活センター協議会常任委員

■さいとう あきこ
 日本女子大学卒。一般企業にOLとして2年働いた後転職。広告会社にコピーライター、クリエイティブ・ディレクターとして10年勤務後フリーに。その間、ボランティアとしてアメリカの障害者投稿誌『リハビリテーション・ギャゼット』を翻訳、編集。1981年より様々な障害者活動にかかわり、10回以上も障害者と海外を旅行。ヒューマンケア協会、ハンズ世田谷運営委員。著書に「アメリカ障害者法」(現代書館)など。


  障害者と旅行してアメリカと日本の違いを最も痛切に感じるのは、サービスに当たる従業員の態度についてである。航空会社でも宿泊施設でも、日本の場合、障害者が利用すると聞いただけで緊張している感じで、大騒ぎをされるので、疲労が倍加する。アメリカでは気軽に多くの人が車椅子を利用し、また車椅子の人もどんどん外出することもあろうが、サービスが実にさりげない。また障害者の言う事をよく聞いて、こちらが希望するように取り計ってくれる。日本では障害者を厚かった経験の少ないところほど、頭の中で考えた“障害者にふさわしいサービス”を無理やり押しつけてくる場合が多い。このことは、高齢者についても同じなのではないだろうか。
  1990年、アメリカでは「アメリカ障害者法(ADA)」という法律が制定された。この法律により、公共交通機関(公営、民営を問わず)は、障害者にも使えるものにしなければならないことになった。ただし、改善の方法は、現状の駅や車両を一度に替えるのではなく、新しいものに替えるときに、漸次使えるものにしていく、という方法なのである。したがって、今アメリカに行ったとしても、すべての公共交通機関が改善されているというわけではない。しかし、日本人観光客の多いカリフォルニアやニューヨークではかなりの程度、路線バスにリフトがついており、通勤電車の駅にエレベーターが設置されているのをみることができる。ホテル所有の送迎用ミニバスにもリフトの取り付けが義務づけられている。
  ホテルやモーテルは、客室の5%を車椅子でも使えるようにし、別の5%にフラッシュランプの設置など聴覚障害者用の設備をつけることが義務づけられている。もちろん、玄関や駐車場に段差がないことや、エレベーターの扉の開いている時間、カーペットの厚み(厚いと車椅子に不便)にも配慮を要求している。日本では、会館など公共のところにのみついているエレベータ操作盤の点字も、アメリカではヒルトンなど大手ホテルにデザイン的にも優れたものがついている。交通機関や宿泊施設ばかりでなく、レストラン、映画館、スタジアム、小売店、ショッピングセンター、銀行、等々、不特定多数の人が利用する施設が、すべて「アメリカ障害者法」の対象になっており、障害者用の設備を備えなければならない。
  ハード面ばかりではない。サービスの提供を拒否したり、あるいは障害者だけに別のサービスを強要することは違法なのである。例えば障害者用のパックツアーを作ることは違法ではないが、普通のパックに参加を希望する障害者に対して、「障害者用にしてくれ」ということはできない。
  「アメリカ障害者法」では、障害者を健常者と同じに扱うことが、市民の義務である。それは「福祉」でも「優しさ」でもない。障害者用設備をつけるときに補助金をアテにする日本では、障害者はまだまだ、“特別”な存在として肩身が狭い。楽しい思い出が残らなくては、観光の意味がない。お年寄りや障害者が、のびのびと観光できる日はいつ来るのだろうか。

[BACK]