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DATUMS 1992.11
英国グランドワークに見る地域づくりの主体

伊藤 寿子  (社)環境情報科学センター研究員

■いとう ひさこ
 1955年生まれ。東京女子大学文理学部卒業。昨年からスタートしたグラウンドワーク日英交流プロジェクト事務局


  世界に先駆けて工業化の道を歩んできたイギリスは、同時に環境保全活動が活発な国としても知られている。よく知られるナショナルトラストの会員は200万人強、これ以外の環境団体の会員数をあわせると成人人口の10%、400万人に達するという。こうした非営利団体やボランティアによる自主的なとりくみをきちんと評価し、行政とうまく連携させているのがイギリスの環境政策の特徴となっている。グラウンドワークもそうした数多い環境団体のひとつであるが、グラウンドワークが対象とするのは自然環境ではなく、都市内の荒れた地域、工業化のマイナス面が集積した地域である。こうした地域で緑化事業、環境教育、散歩道や公園の整備、レクリエーションや観光の振興、コミュニティ施設の整備、人材育成など、多彩な活動を展開している。
  この団体は、1981年に行われた政府機関による実験事業を発端として設立され、現在も政府、地方自治体の支援を受けている。組織的には、地域に根づいた組織「グラウンドワークトラスト」とトラストの全国展開をはかる「グラウンドワーク事業団」からなり、トラスト数はイギリス全土に現在30ヵ所、その数は年々増えている。
  グラウンドワークが原動力にしているのが、住民、行政、企業など地域の構成員による「パートナーシップ」である、パートナーシップのしくみは、まず政府、自治体あるいは企業が共同出資し、地域に非営利目的のトラストを設立することから始まる。トラストには環境分野の専門家が雇用され、行政とは独立した地域の仲介組織として、行政、企業、他の環境団体、市民ボランティア、学校などと横の連携を強めながら、上記の活動を実現していく。アイディア、知識、技術、学力、資金などを地域のなかから引き出し、それらを結びつけることで、地域の要望にそった改善を実現していくのがこの団体の手法である。 昨年以来のグラウンドワークとの交流を通じて私が強い印象を受けたのは、パートナーシップによる成果とともに、地域を創り、守り育てていく主体についてである。昨年来日した、都市計画を専門とするバーミンガム大学教授のG・チェリー氏は、戦後確立したイギリスの都市計画は、細かな規制については強力でありながら、生活の質や環境といった大きな視野については弱体であり、また、住民のニーズを満たしてこなかったことから、70年代以降、非常に苦しんできたと語った。こうした苦悩のなかで従来のトップダウンではなく、流れを逆にしたボトム・アップの方向性に目が向けられ、そこにグラウンドワークの発展の鍵があると指摘した。
  また、今回来日したA・フィリップス氏(ウェールズ大学教授)は、地域社会の自己実践能力を強化することが必要だと説いた。地域社会の行政が把握している以上に多様であるため、地域に権限を移行し、住民自身がイニシアティブを取ることができるように、行政は財源をやノウハウなどの側面支援によって保障すべきだというのである。権限が過度に行政に集中した日本で、このグラウンドワークのメッセージはどのように届いたのだろうか。

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