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DATUMS 1992.11
ふるさとリゾートのすすめ

若井 康彦  (株)地域計画研究所代表取締役

■わかい やすひこ
 1946年千葉県生まれ。69年東京大学都市工学科卒業。77年(株)地域計画研究所代表取締役。首都圏、沖縄県を中心に都市・地域計画、まちづくり計画、観光計画などの調査に従事するかたわら、過疎・離島地域の振興方策にかかわるあらゆる分野に参画している。おもな著書に『若者と都市』(学陽書房)、『島の未来史』(ひるぎ社)、『生活リゾートの創造-地方圏と大都市圏の新たな架け橋』(綜合ユニコム)がある。


  長野県の山村に、ゴルフ場もスキー場もないけれど、けっこう人々が訪れ、年々、ファンの増えているところがある。夏は暑く、冬は豪雪で、特に際だった景観もない、そんな変哲もないムラだ。そんなところに人気の集まる秘密は、ひとつは温泉である。ずっと以前から、最も辺鄙な集落から順に温泉を掘り当て、規模の小さな、しかし、そのため、周辺環境によくなじんだ施設を整備してきた。シーズンにはあっという間に一杯になってしまうような施設ばかりが、それぞれの集落で、いわば「十分、お世話できる」性格の拠点になっている。こうしたノウハウは最近ではよく知られるところとなって、全国津々浦々、あまねく魅力的な温泉が出現しているのは好ましいことだ。
  もう一つの秘密は、そしてそれがより重要だが、そこをよりどころに様々な活動が行われることである。代表例として、例えば春のタケノコ汁、秋のキノコ汁等がある。もともと田植えや収穫の後の地元のアウトドアレクリエーションだが、積極的に他社を交えることによって、より活気が出てきた。来訪者の側も、食べるだけでなく、一緒に山に入ってタケノコやきのこを採るなど、前もって描いてきたイメージとは異なる自然との付き合い方を体験させられる。もともと、このヤマとの付き合いは地元がずっと先輩である。少々の知識やほかでの体験等、いくらか先達たちの退屈を紛らわすに足るといった程度のものに過ぎない。早々に無心になったものが勝ちである。
  確かに、タケノコ汁もきのこ採りも、それぞれは特別にめずらしいものではないが、ここではそれがどんな時、どんなところで誰によってどんな風に行われているのか、いつの間にか、身をもって理解される快感がある。そんなメンドウなこと、と感じるくらいなら、いっそ最初からやめるにしくはないだろう。自然とは、もともと付き合うにメンドウなものだ。
  さて、そんなやり方では総需要にとても追いつかない、という意見もあるだろう。しかし、ひとところで集約的に供給を賄おうという考え方こそ、都市における効率第一の論理である。そうした仕組みから離れることこそ、「自然」ではないだろうか。伝統社会を活かしつつ小規模でも多数の供給拠点を整備することこそ、自然を保全しながら活用する、最も効率的かつ有効で、無理のない方式ではなかろうか。需要の側も、こうした無数の供給拠点の中から、自らにふさわしいセットを選択すればよかろう。
  バブルの崩壊とともに、ようやくリゾートブームも奇妙な形で一段落というところだが、リゾートという言葉が本来提起していた、国民的余暇需要の機会の充実も、それを機に進められるべき新しい地域づくりという課題も、ことの本質は全然解決しないまま先送りされてしまった。しかし、終わったことをとやかく言っても仕方がない。むしろ、それに含まれていた問題について改めて考えてみるよい機会だと思う。人々が積極的に自然に親しみ、本来の人間らしい暮らしのリズムを取り返そうというのはいい傾向だし、何とかそれらが望ましい方向へ向いていってくれることを期待したい。

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