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DATUMS 1992.03
自動車メーカーのレジャー戦略

鈴木 正文  二玄社刊・自動車専門誌『NAVI』編集長



  トヨタ・カローラが昨年6月、例によって4年ぶりのフル・モデルチェンジを受けて発表された時、この新型の販売がモデル末期だった前年実績を下回り続けることになるとは、誰も考えなかっただろう。事実は、誰も予想しえなかった筋書きを展開させた。なぜ? あらゆる点で旧型をしのぐハードウェアの出来映えを示し、日本自動車工業のひとつの達成を代表したと思われた「マジメ」なニュー・カローラが、発売直後からどうして低迷を余儀なくされたのか?
  確定的な答えがあるわけではない。けれど、いくつかの有力な議論が生まれはした。ひとつは、たんにニュー・モデルであるからといって、それだけで需要の拡大を展望できる時代が終わったという見方である。もうひとつは、たとえばニュー・カローラの売れ行きがパッとしない一方で、三菱のパジェロやトヨタのエスティマ、日産バネット・セレナといった、非在来的なクルマが好調さを維持していることに着目して、自動車マーケットにある種の構造的な変化が起きつつあるのではないか、という指摘である。もっと言えば、前者の原因は、じつは後者によってつくり出されていると、見るべきだというのだ。
  実際、昨年10月の東京モーター・ショーを見ても、もっとも精彩を欠いていたのが、いわゆる「フツーのサルーン」であった。反対ににぎわったのがスポーツカー、スポーティー・クーペ、スペース・ワゴン、ステーション・ワゴンといった「あそびのクルマ」である。「あそびのクルマ」は、それ自体、二種類に分かれる。ひとつはクルマに乗る行為それ自体が「あそび」であるようにつくられたもので、スポーツカーがその典型となる。もうひとつは、クルマの外に存在する「あそび」のよき手段たるべくつくられたもので、リクリエーショナル・ビークル(RV9と呼称されるワゴン系がその代表だが、ジープ型の四輪駆動車もこのジャンルに含まれる。
  こうした「あそび」系クルマたちの車種の増加や人気の上昇は、もちろん、日本人のライフスタイルにおける「あそび」の地位の向上に見合ったものである。しかし、そのことを確認した上で、僕が面白いと思うことがひとつある。それは、ジープ型四輪駆動車のユーザーの実に7割強が4WDにして走ったことがない、という市場調査の報告だ。それを信じれば、街でみかける4WDのほとんどは、その本来の機能とは関係ないところで消費されている、ということになる。機能だけでいうなら、カローラでもいいはずだ。しかし、カローラではダメだ、というところに欲望の鏡としてのクルマの面白さが潜んでいる。たとえ「あそび」の実質が不十分だとしても、クルマに映し出されたかぎりの僕らの欲望は、一徹なマジメさには向かっていないようなのだ。

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