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DATUMS 1992.04
高齢者の生きがい

大友 博子  日本ロイス株式会社主任研究員、(財)シニアプラン開発機構「生きがい」研究会委員

  “人生80年時代”この言葉は、人々が単に長生きをするというだけでなく、物質的豊かさを基盤として健康でかつ幅広い生き方を選択でき、また個性を発揮できる豊かな社会を意味している。その豊かさの尺度は「モノ志向」から「ココロ志向」へと変わり、その意識の変化は社会構造や企業のあり方をも変えつつある。
  「高齢者の不安の3K」というものがある。健康、経済生活、こころ(生きがい)である。この3つはいままでの調査で不動の地位を保ち、これからも永久に変わることはないだろう。その中で、近年最も大きな問題として注目をあびてきたのが「生きがい」である。
――高齢者の生きがいとは?
  「生きがい」とは健康や経済問題のように普遍化できるものであるがゆえに、これほどやっかいなものもない。表は「生きがい研究会」で厚生年金受給対象の勤労者3050人に行ったアンケート結果である。人によって表現の仕方が異なる「生きがい」を表す語句を提示し、自分の捉え方に最も近いものを2つ選んでもらった。これを年代別に見ると64歳までは「生きる喜びや満足感」「生活の活力やはりあい」が1,2位を占めるが、65歳以上の男性高齢者になると「他人や社会の役に立つ」が第2位に、女性では「心の安らぎや気晴らし」が第1位となり、他の年齢層とは異なる結果が出ている。
――高齢者像の変化
  これまで、高齢者に生きがいを与えるものは、趣味や学習とされてきた。確かにこれらは今後も大きな要素を占めるだろうが、ここにきて、大きな変化として現れたのは「社会参加」である。
  日本人にとって大きな価値観の変化をもたらしたものに1945年の敗戦と戦後民主主義がある。ここを基準点として高齢者像の変化を考察すると、大きく3つに分けられる。
A群…現在65歳以上の高齢者(敗戦時成人しており価値観ができあがっていた)
B群…50〜60歳(学齢期に民主主義教育の洗礼を受け、戦前の価値観との狭間で意識を構築)
C群…団塊の世代以降(戦後民主主義の申し子)
  A群の生きがいは、孫の成長を楽しみ、自然に親しみ、仲間と趣味を共有して静かに暮らすことであろう。対してB群は静かな社会構成員から積極的に社会の一員たろうとする意識が加わる。A群より権利意識が強く、自己実現欲求も強い。彼らは老人クラブのゲートボールや温泉旅行のように隔離された同質者集団の中では決して満足しない。
  今、生きがいが注目されてきたのは、高齢者の中心がA群からB群へと移ってきた証といえる。そして団塊の世代を後ろに控えてこの傾向はますます強まっていく。
――レジャーの社会化がカギ
  レジャーという言葉は、ただの気晴らし、生活と切り離したところでの遊びのイメージが強い。これからの高齢者は働く、学ぶ、遊ぶのすべての分野に「社会性」を求める。労働を単なる生活の手段としてとらえず、社会的価値を求め、遊びも社会に向かって自己実現できるものを求めるだろう。若者のユニークな試みであるピースボートに高齢者の参加が増えてきたのは、船旅に別の価値を求めている現れと言える。
  今、行政や企業に最も必要なことは、この高齢者像の大きな変化に対応できる発想の転換であろう。

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