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DATUMS 1992.04
メディア教育のプログラムを

津田 正夫  NHK名古屋放送局放送センター チーフ・プロデューサー

■つだ まさお
 1943年金沢市生まれ。京都大学経済学部卒業。1966年NHK入局。主な制作番組:「長良川夏姿(1979)」「中学校保健室(1983)」「ピョンヤンの再会(1987)」「闘将たち(1989)」
 主な著書:「農村と国際結婚(日本評論者)」「テレビジャーナリズムの現在(現代書館)」「長良川河口堰(技術と人間社)」)


  湾岸戦争報道、旧ソ連クーデター報道、ブッシュ大統領訪日時の病気映像の“流出”などを思い起こしてみるまでもなく、エレクトロニクス技術の加速度的発達のなかで、映像伝達の規模の肥大やスピードアップはすさまじい。今年に入ってからも、全国各地でのCATVの開局、CS(通信衛星)による放送開始など“多メディア化”が進んでいる。これらの媒体(メディア)は、日に日に膨張していくばかりでなく、メディアを支配下におこうとする政治の磁力などによって、ときには相当に歪んだ情報が大量に吐き出される。ロス疑惑事件報道、天皇病状報道、連続幼女誘拐殺人事件報道などに典型的にみられるように、普通の市民のくらしとは程遠い“情報”を押しつけたり、ときには市民の平穏な生活に侵入してプライバシーを犯したり、誇大なCMや過剰な表現によって子供たちの価値観・人間観の形成を歪めている。
  こうした一面的な“情報”や商業的政治的な情報操作から自分自身を守り、悪意で隠された情報を手に入れ、正しい判断力を身につけ、メディアを自分たちのくらしの道具として使いこなそうと、1989年の欧州議会では、義務教育期間中に子供へのメディア教育を行うことが決議された。また、同年ユネスコ総会では、「情報を批判的に意識し、能動的に対応できる力を養う教育の開発」を決議している。イギリスやカナダなどでは積極的にメディア教育のカリキュラムや教育づくりも進んでいる。これに対して日本では、今春から実施される小学校社会科の新指導要領に「テレビを作る人たちの工夫と努力を知ろう」といった程度の項目が加わっただけで、これでは情報化社会の主体になることはおろか、有毒物のあふれた情報洪水を泳ぎ渡る能力を身につけることは到底おぼつかない。
  報道される側が自分のプライバシーを守り、過剰・有害な報道をコントロールするためには、とりあえず臓器移植などでの医療の倫理基準として近年合意されてきている「インフォームド・コンセント(説明と同意)」という概念を、報道する側との間で早急に議論していく必要があると思われる。過剰・有害な情報が人を誤らせ傷つけるのは医療のそれに勝るとも劣らないからである。
  そして、“受けて・使い手”が根本的に情報化社会の主人公になるためには、情報の加工流通の仕組みを知り、情報の意味を解読してゆく力をつけるための自己教育がどうしても必要だ。FCT(子供とテレビの会、市民とテレビの会=鈴木みどり代表)は10年あまり前からテレビCMを詳細に分析するなどして、テレビのへの批判力を広げている市民運動だが、教育関係者たちと協力してすでにカナダの教材を訳出しつつある。市民自身の手によって学校教育・社会教育で広く使えるメディア教育のプログラム教材を日本でも作ってゆくことが、今後必要なのではないだろうか。

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