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DATUMS 1992.06
大型イベントの集客力

松井 渉  インタークロス研究所代表取締役

■まつい わたる
 1972年早稲田大学卒業後、日刊工業新聞社などを経て、1982年イベントシンクタンクである(株)インタークロス研究所創設。中央官庁、企業、地方自治体などからの依頼でイベントに関する実態調査を行ったり、全国第一線のイベントプランナー、イベントプロデューサー、イベントディレクターへ情報を提供している。


  80年代日本で起こった地方博覧会など大型イベントのブームは、「ボタンの掛け違い」から始まったとおいえるだろう。大勢のお客様にそこそこの費用で満足していただいて、事業経費は比較的安く、結果として1ヶ月10億円も儲かり、なおかつイメージアップに繋がるおいしい商売に見えてしまった。大きな錯覚であった。
  右ページの表は過去10年間に日本で開催された50万人以上動員した博覧会のデータをまとめたものである。期間は短いもので22日間、長いもので200日を超える。入場料は『世界のつつじまつり』のように無料のものから一人3千円までバラバラである。大部分の博覧会が地方自治体の直接管理下におかれている。公的機関が発表したとはいえ、データとしてあまり信用できないケースが多い。例えば『世界デザイン博覧会』や『長崎・旅博覧会』のように3会場で個別に集計した入場者数を単純に合計しているような場合には、こちらも単純に3分の1として考えなければならない。収支の部分でも会場用地費などは自治体が別途に負担しているケースが多い。職員を十数人も無料事務局員として派遣し、補助金を出せば若干の黒字決算などすぐにできるはずだ。従って大部分の博覧会が、民間企業の経営した場合として想定すれば、かなりの赤字であったといえる。「自治体がイベントで儲かる必要があるのか」という根本的な疑問は別としても、赤字になれば地域住民の負担となることは間違いない。表では触れていないが、81年のポートピアでは施設建設費など直接投資額は692億円であったのに対し、90年の大阪花博では約3千億円といわれている。両者の収支がほぼ同じであることから9年間の物価上昇を考慮しなくとも、投資効率としては4.3分の1に減少している。企業の商品生産高における「規模のメリット」が大型イベントでは発揮されないことがご理解いただけただろう。地域も限度以上の規模を追求することによって逆に地域特性を殺す方向にいかざるをえず、他地域との差別化に活性化という初期の目的を見失う結果となってしまった。

  1936年21月24日に中原中也が『夏の夜の博覧会はかなしからずや』という詩を書いている。「夏の夜の、博覧会は、哀しからずや/女房買物をなす間、かなしからずや/象の前に僕と坊やとはゐぬ、/二人 蹲んでゐぬ、かなしからずや、やがて女房きぬ(略)われら三人飛行機にのりぬ/例の廻旋する飛行機にのりぬ」(岩波文庫版『中原中也詩集』より)
  20世紀は電話、自動車、コンピュータ、ロケットと偉大な発明を数多く成し遂げた。しかし、買物を楽しみ、珍しい体験に驚き、おいしい料理を喜ぶ人の感性が変化したわけではない。初心に還るべき時ではないのだろうか。

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