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DATUMS 1992.07
市民にとっての文化ホールとは何か

西田 穣  (株)地域計画研究所取締役

■にしだ みのる
 1946年生まれ。東京大学工学部卒業。1973年地域計画共同体設立。、1976年地域計画研究所と合体、現在同取締役。大都市周辺の自治体を中心に、市街地の再開発、スプロール地区の整備等、地区レベルの計画立案業務を行う。最近は地域の活性化、文化施設の計画、地球レベルの文化行政拡張・振興策の検討調査等にも従事。


  第二次ホールブームである。高度成長期の第一次ブームが使えない多目的ホールを多量に生み出したことは事実だが、うちの町にもサントリーホールを、オペラハウスをというトレンドは市民にとって意味があるのだろうか。
  3面・4面の舞台を持つ大規模ホールが20館以上も計画されていると言われる。もしかするとオペラづくりが日本の新しい商売になるかも知れないが、「興行採算→大規模化→ますますソフトが高く→予算がなく使えない」という悪循環が現実である。「ぴあ総研」によると首都圏における音楽・演劇全体の興行規模(ぴあに掲載された有料興行の総収容力と理論料金収入)は年間約1750億円、2800万席というから、一人のひとが年に1回、5千円弱を支出するというのが現実なのに、一席が数万円もするオペラ、コンサートの鑑賞人口が急増するとは考え難い。結局「興行採算性」で判断することが不毛で、どうせ赤字なのだから、規模が小さい事によるディメリットを助成等の措置で補完すれば、エージェントにとっても十分魅力ある施設となるはずである。
  そもそも、大規模化・専門施設化志向の背景には幾つかの誤解があるようだ。オペラの生国である欧米でもグランドオペラはそんなに多くないし、現代作品では舞台を抽象化し、簡素化する傾向も見られる。3面・4面の舞台は一つの公演用というよりは、フェスティバルなどで複数の公演を行う時や劇場に属する劇団が芝居の仕込み用に利用しているのが本当のところで、リハーサルを公開し小劇場的に使っているところも見られるようである。「19世紀西欧古典芸術」が絶対的な世界はもう終わりなのだろう。多くの人が海外体験を持ち、エスニックな文化などに対する興味も強い。これからは地域文化を総合的に紹介し、クロスオーバーな展開ができる場が必要だろう。例えば東京郊外部では、地域のプロや興行では見聞きできない実践的な素材を選んで、市民が演奏会をプロデュースするなどの活動が日常的に行われており、彼らは、一般的なホールではなく、映像と演劇と音楽が同時に行える様な想像力を刺激する空間が欲しいという。
  最後に、我が事務所も弱冠お手伝いしている新しい形の文化事業を宣伝がてら紹介したい。今年は日印国交40周年に当たり、政府行事でインドの古典音楽家と舞踏団が招待されるが、新潟県十日町にあるインド細密壁画の美術館長・長谷川さんの努力で、大都市の公演だけでなく地域の人たちと草の根の文化交流を進めながら、北は網走市から南は与那国町、人口200人の東京都青ヶ島村など、30有余の町を巡る全国ツアーが実現した。十日町を拠点に、何回か戻ってきたラマダーン(断食月)をすごすなど、3か月に渡る長期ツアーである。商業ホールと競ってソフトを買うだけではなく、地方への文化紹介や曽も受け入れ拠点になるなど、このような事業を進めることが、大都市の公共ホールのやるべきことなのではないだろうか。

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