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DATUMS 1992.09
旅行業に新しい視点を――NGOと旅行業

望月 広保  (株)ヌーベルフロンティア代表取締役

■もちづき ひろやす
 1952年生まれ。高校時代は「べ平連」事務局に参加して活動。党派活動を経て、地方公務員、建設作業員、フリーライターなどに従事。ピースボートファンデーション初代事務局長、「草の根援助運動」事務局、京葉教育文化センター事務局など多くのNGOに参画。著書は「宝島スーパーガイドアジア・シリーズ全17巻(JICC出版局)など。


  「年間渡航者1,000万人時代」に突入した今、旅行スタイルが多様化し、今までの主要マーケットは付加価値商品が減少して利益単価が低くなり、また分化された新マーケットは独自のマニュアルと新価値観が必要となった。大手旅行会社は、そのマーケットに合わせ新会社を続々と分社させる対応を始めた。
  「学生」「山岳」「安いハワイ」など、最近流行のアンテナショップだ。一昔前なら格安航空券業者が扱っていた「隙間」だ。

●NGOを狙う大手旅行社
  最近そのひとつとして狙われだしたマーケットはNGO「業界」の団体旅行がそれ。カテゴリー名称は未確定で、「研修旅行」「体験旅行」「交換旅行」、または英語名称で「スタディツアー」「エクスポージャートリップ」「エクスチェンジプログラム」「オルタナティブツアー」とも呼ばれる。旅行内容も幅広く、単なる短期語学研修やホームステイなどから、NGOの現場プロジェクト訪問や、開発協力の労働奉仕、民族革命勢力との交流連帯までも含まれる。主催者側も、○○○財団や△△△大学ゼミ、労組、教会団体、NGOなど多彩である。
  大手旅行社の営業活動は、今年6月開催された「ブラジル国連環境サミット」にも、数多くあった。また、NGO主催の夏休みスタディツアーにも食指を伸ばしている。もし、この一連の営業が成功を納めれば、興味あることが起き、双方にとって益あるビジネス=企画になると考えられるはず。

●NGOの企画も曲がり角
  このNGO「業界」でスタディツアーの先駆となったのは千葉県市原市の(財)京葉教育文化センター。72年の第1回は東南アジア6カ国を、県内の青年労働者が訪問した。毎年1-2回実施して、すでに17回を数え、参加者300名強となっている。しかし、この数年は内的問題が発生している。参加者が全国に拡がり、当初は義務だった事前学習会も開催が難しい、年齢や経験の差で現地行動の調整が難しい、旅慣れた人が増え宿泊先などへの注文が増加など。今や他のNGOでも同じ現象が起きているようだ。
  また、外的問題も生じた。第三世界各地に現場プロジェクトを持つNGOは、80年代前半は日本の人々に対し「現場に来て欲しい、自分の目で鼻で肌で感じて欲しい」とアピール。それに応え多くの人が現場訪問し「開発教育」を国内に還流させている。
  しかし80年代後半、NGOの風向きが変わり「プロジェクトに直接関わっている人以外は歓迎しない」となった。それは参加者側の問題が大きい。受入団体の都合に無遠慮な訪問、多くの質問/多くの撮影/多くの資料収集、しかし帰国後は無連絡など。つまり参加者の多くが「自分はいつも正しい。正しい旅行に来ている」の思い込みと、NGOスタッフの多くが「日常仕事の邪魔、寄付の貢献も少ない」と考えた時に生まれた現実だった。
  また、「プロの旅行社は儲け主義優先」の企業偏見は悲劇も生む。技術的に解決可能なことを決意だけの精神主義の押しつけに、参加者への経済的肉体的負担に転嫁することも。

●プロの技術を活かせ
  旅行社のなかにも新世代が育ち、全共闘世代の社長はもちろんのこと、NGO会員の社員やスタッフ社員も増えてきている。運動特有の狭い価値観は役立たずの企業偏見を生み、誰も得しないはず。旅行社の保有するコンピュータ手配や通信システム、宿泊契約や人的繋がりなどを有効に使いこなす、NGOのしたたかさが求められる時代になったはず。また、「開発教育」の手法や発想を既成の旅行業界に持ち込む機会にもなり、「売春運ツアー」「ミヤゲ屋めぐり観光」「遺跡破壊観光」を見直す論議の一助にもなるはず。
  オルタナティブツアー、それは「もう一つの観光」ではない。「新視点を旅行業界に創出する旅」と訳したい。

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