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DATUMS 1993.11
沿線開発と主婦の生きがい開発―東急セランプロジェクト

近藤 実  東京急行電鉄(株)生活情報事業部計画部・メディア事業課参事

■こんどう まこと
 1951年生まれ。東京都出身。学習院大学法学部卒業。セランプロジェクトに当初からかかわる。


  東京急行電鉄を中心とした東急グループによる多摩田園都市の開発は1953年に始まり、今日では川崎市、横浜市、町田市、大和市にまたがる5,000ヘクタール、人口47万人、17万世帯の朝日ベッドタウンになっています。昼食時にここに住む約30万人の人口は主婦、子ども、老人の三者のみで構成されており、ビジネスエリアから送られた給与を消費する、いわば生産性のないエリアであるともいえます。
  多摩田園都市では他のベッドタウン同様、住まいの形態は一般に核家族であり、その「主婦」は、結婚・子育てのために家庭に入る前は職業経験を持ち、比較的高学歴の女性です。こうした環境のなかで、“子どもを育て家庭を守る”「主婦」像ではなく、新しい都市空間で必要となる「主婦」の生きがいを考えてみようと試みているのが『セラン(SELUN=System for an Exclusive Life in Urban Nature)』です。
  セランの理念は、「緑豊かな都市に磨かれた人生を送るシステム」です。具体的には(1)独自のパソコン通信を伝達手段として多摩田園都市に在住する主婦を核としたネットワークをつくる。(2)ネットワークを活用して在宅ワークを中心とした各種事業を行う。(3)このネットワークを通して相互の情報往来をおこなう、という三本柱を中心としています。これらの活動のキーポイントは、セラン会員自らが社会とのつながりをベッドタウンの中で持ち、生きがいを生み出すこと、そしてパソコンやファックスなどの新しい電子機器を利用して意思や成果品の伝達を行うことにあります。セランは91年6月に第1回の会員募集を行いました。倍率5倍の中、350名の会員を決定し翌年1月より実稼働を開始しました。パソコンについてはNECノート型を全員に貸し出す方法により、通信及び入力方法の統一と安定した生産を確保できるよう配慮しました。現在の業務内容は、データベース入力、翻訳、パソコン通信によるグループインタビューや一般のマーケティング、編集(DTP編集、一般編集)、セランネット活動、そして、発送作業、テープ起こし、講習会活動などとなっています。
  セラン会員対象の調査によると、大学短大卒業者が会員の60%を占めています。消費パターンにおいてはインスタントよりレギュラーコーヒーを愛用し、冷凍食品の利用が比較的多く、ウイスキー、日本酒、ワインの利用がほぼ同じで、生協の加入率が高く、通信販売をよく利用する「主婦」像が浮かび上がります。
  結婚・子育てのためにいったんビジネス領域から離れた女性の社会復帰をどのようにして行うか、どう手伝えるかは、ベッドタウンの抱える新しい問題といえます。
  「私たちの願望は私たちに内在する可能性の予感であり、私たちが達成する予兆である。」ゲーテの言葉を持ち出すのもちょっとキザですが、まだ緒に着いたばかりのセランの仕事を通じて、都市における「主婦」の生きがいと可能性に関する問題をこれからもできる限り考えていきたいと思っています。

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