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DATUMS 1993.12
本当に不安感はお金を払って解消できるのか?

高橋 秀夫  (株)リンクスコーポレーション 代表

■たかはし ひでお
 1950年岡山県生まれ。幼少時名古屋に移住し18歳まで名古屋で生活。東京の大学卒業後、出版社、自治体職員経て、地域プロジェクトなどの事業計画作りを事業とするリンクス・コーポレーション設立。最近高校時代の悪友と神輿をあげた「大名古屋人元気会」で、劇団の支援活動を行っている。


  最近これぞ「健康の素」と銘打った商品がたて続けにヒットしている。最大の注目品は「天然水飲料」「ミネラルウォーター」「浄水器」「アルカリイオン整水機」とうのウォター・ビジネス商品。「銘水食パン」「ミネラルウォター使用有機納豆」「名水漬け漬物」「天然水を使ったウィスキー水割り」などなど、「おいしい水で作った…」をアピーるした商品も多種発売されている。ペットボトル容器の家庭用ミネラルウォーターとともに、浄水器やアルカリイオン整水機も急激に売り上げを伸ばし、浄水器協議会の調査によると、東京の普及率は35%、大阪では40〜45%。現在、大都市においては浄水器は水道の蛇口の付属品になりつつある。
  健康水ブームの原因は何か。ちょうどバブル崩壊と期を一にしたことに注目したい。水道水の「味」や「安全性」が関心を集めた時代背景はあるものの、明らかにイメージが先行している面が強い。ミネラルウォーターの原水地が、CMやポスターに表現されている深山幽谷の地や清烈な泉であることはほとんどない。有名な「六甲のおいしい水」の場合は、新幹線、阪急電鉄、JRに囲まれた住宅地である。ペットボトルと輸送費で1本当たり100円以上かかるミネラルウォーターは、トラックも行けない人里離れた場所で採水していては商売にならないのである。
  日本人の購買特性として、最初は同一化、その後一定の時期を置いて個性化を辿ることがままある。トレンドが変化したときに特定の商品に一斉になびいてしまうのは、周囲との生活水準の差が開くことが嫌で、自己防衛本能が強い中流階級の特性である。低価格・単機能だけでは中流階級に夢を与えることはできない。中流階級の知的水準を満足させ、かつライフスタイルがあるレベルで上昇していると思わせる訴求力がない商品は売れない。ポストバブル時代に色々なメーカーが提案した「自然」「安全」「環境保護」というテーマはその点説得力と納得性に富んでいた。不況の進行で誰もが大きな不安感を持つ中で、最低限自分と自分の家族の身体だけは守ろうという身近で手軽なトリガーとなって、健康や健康水ブームを呼んだのである。
  年金型の保険もそれに近いものがある。高齢化社会の到来で「自分の老後は自分が貯蓄したお金で暮らしなさい」と宣告されているようなものである。
  要するに、日本の政治や経済の失敗・破綻を結局は生活者が尻拭いさせられているのである。健康水にしても老後の年金にしても政治や行政の失敗や見通しの甘さが根本的な要因であるのに、それにかこつけて商売が成立するのだから日本も変わった国だ。今後ますます生活不安が増していけばとんでもない商品が売れるようになるだろう。10年前まで主婦が水をスーパーに買いに行くことなど想像もできなかったのだから。
  メーカーが「健康」を大金で売ることができる時代になり、人の不安につけこむような、イメージと実体がかけ離れた商品が氾濫する中、生活者は情報をしっかり入手し、効用をよく確かめてから購入すべきである。そして現状ではまだまだ生活者よりメーカーの方が数段上手であることをよく理解し、十分注意することが大切である。

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