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DATUMS 1993.09
古くて新しい国、ポーランドの観光事情

久保 祥治  日本旅行労働組合本部副委員長

■くぼ しょうじ


  私たちが日本を起つ直前、「ポーランドにゼネストの危機」というセンセーショナルな報道が新聞紙上を賑わせた。ひょっとして入国できないのでは、という不安が一同の脳裏をよぎった。しかし、確かに議会が解散するなどの事実はあったが、ワルシャワの市民生活は予想していたのとは違い、「激動する東欧」といった緊張感もなく平穏そのものだった。街を歩く市民の顔色もいたって明るい。
  私たちのガイド兼通訳としてつきあってくれたクリス・オストロフスキ氏は、五木寛之の小説『ワルシャワの燕たち』に描かれる多感なポーランド青年のモデルとなった人物。五木の現地取材に案内役として同行したり、海部元首相の通訳なども経験した日本語ガイド兼社員一人を抱える旅行会社の社長さん。彼のような旅行会社が自由化以降、雨後の筍のように出現して、現在約4,000社が存在するという。
  さて、まだまだ日本人に馴染みの薄いポーランドの観光事情だが、同国最大の旅行会社オルビスでの説明によれば、同社が昨年取り扱った日本人観光客は僅かに750人ほどだという。関西新空港開港とともにワルシャワへの直行便開設も予定されていることもあって、今後の日本マーケットへの期待も大きいようだが、課題は「ピアノの詩人ショパン」にだけ頼ってきたプロモーション活動をどうするかということだろう、というのが率直な印象だった。
  一、自由化以降のポーランドの来訪外国人数は急激に伸びている。特に隣接するドイツ、旧チェコスロバキア、旧ソ連からの入国者が圧倒的に多い。しかしながら、観光研究所の副所長ビストルザノスキー博士によれば、これらの国からの入国者の多くは買い物を目的に日帰りで来る人たちだという。また、国外へ移住した人たちの里帰りというケースも多く、そうした意味ではまだまだ純粋な観光客は少ないというのが実態のようだ。とはいえワルシャワ市内にはヴィクトリア・インターコンチネンタル、マリオット、フォーラムなど近代設備の整ったホテルも建ち、また戦後見事に復元された旧市街の美しい町並みや、今回は訪問できなかった古都クラクフなど、観光地としての基盤は充分に揃っているという印象が強い。日本の旅行業界としても新たな観点から捉え直しみる必要があるのだろう。
  話は変わって、現在ポーランド政府では、スポーツ観光庁を中心にして、国内向けに農村観光を普及させようとしているらしい。社会主義時代には、国民の宿泊レジャー需要の受け皿として企業保有の保養所が数多くあったのが、社会主義体制崩壊後に少なくなったことと、急激な物価上昇により普通の国民がホテル等を利用できなくなったという事情が根底にあるという。」確かに、ホテルで千円1枚を両替して受け取った10万ズウォッチ紙幣のの迫力には面食らうと同時に、この国が経てきたここ何年かの激動の姿を垣間見る思いがした。

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