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DATUMS 1993.09
豊かな国イギリスのグリーン・ツーリズム

中島 敏雄  京阪交通社労働組合委員長

■なかじま としお


  ロンドンから特急列車に乗って少し行けば、美しい農村風景が車窓いっぱいに広がる。牧草地に寝そべる牛の姿や、線路脇の運河で釣り糸を垂れたり舟遊びする人々の姿がのどかに見える。「イギリス人の農村志向は最近とみに強まった感じがする」といいうのは、最近出版された『グリーンツーリズム』の著者の一人小山善彦氏の言葉だ。が、そんな光景にあちらこちらで出会った。
  イギリスで「グリーン」といった場合、単なる「緑」とか「自然」という意味ではなく、地上の全ての生命の尊重、資源の適正利用、多様さの評価、あるいは全ての生物の相互関連の認識といったことがその概念の根底にあるという。「グリーン・ツーリズム」とは、こうした「グリーン」という言葉によって示される価値観のもとに農村地域や都市を楽しむこととして理解されているようだ。言い換えれば、大型でしかも商業化の進んだ拠点集中型のツーリズムではなく、地域の生活や環境に配慮した、人間的なスケールのツーリズムということになる。その典型的な事例がイギリスの農村ツーリズムだ。
  世界に先駆けて産業革命を起こし、都市化をいちはやく経験してきたイギリス人は、もともと農村に対して特別な感情抱きつづけてきたといわれる。ブリストル大学のバーナード・レイン教授によれば、そうしたもともとの土壌に加えて、農村地域での雇用機会と所得の減少から、農家経営の多角化が必要に迫られ、農家民宿を始めとするホリデイ・ビジネスを農家が指向することになったこと、また、国の公的な機関やナショナル・トラスト、王立鳥類保護協会といったボランティア団体が農村ツーリズムを支援してきたこと、さらに、イギリス人の余暇に関する意識がここにきて大きく変化したことが、最近になって農村ツ−リズムが大きく注目されるようになった理由だという。
  イギリス人の余暇の過ごし方については、70年代以降、観光地に大量に押しかけ、忙しく名所旧跡を回るタイプの画一的なスタイルから、一人あるいは小グループで、観光シーズンや有名観光地を避けながら、農村地域を個性的に楽しむスタイルへと人気が移ってきた。その背景には、学校教育や生涯学習プログラムの充実による教育レベルの向上、それに伴う自然・歴史・文化的遺産への関心の高まり、そして何よりも自分の個性を認識し、都会で失われた本物の生活や体験を求める願望の強まりがあるという。そして、余暇時間の増加やアクティブな高齢者の増加などが、その傾向に拍車をかけるものと見られている。
  イギリス式の農村ツーリズムが、日本の実情にそのまま適合できるとは残念ながら思わない。しかし「グリーン・ツーリズム」という考え方が、日本のツーリズムに対する新しい問いかけとなっていくことは間違いないだろう。

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