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DATUMS 1994.01
ホテルとエイズ教育

馬場 萌  ワイキキ・ヘルスセンター プログラム・コーディネーター

■ばば めぐみ
 1987年成城大学大学院コミュニケーション学科でヒューマン・セクシュアリティ専攻。ハワイ大学研究調査員、エイズ教育指導員などを経て、1992年よりハワイ州のNPO(民間非営利組織)ワイキキ・ヘルスセンター「AIDS/STDジャパニーズ・アウトリーチ・プログラム」のプログラム・コーディネーター。


  1993年10月3日付の『ホノルル・アドバタイザー』(ハワイの地方紙)に、「東京のホテル、HIVに感染している地元の劇作家の滞在を拒否」という見出しの記事が載った。地元のHIV/エイズの関連団体は、ニューズレターでこのことを大きく報じ、各専門家の会議では来年の国際会議の開催地への不安が語られた。
  94年8月、アジア初のエイズ国際会議が横浜で開催され、世界各国から、7,8千人の患者・感染者が日本を訪れることになっている。92年9月に続いて起きたこの宿泊拒否問題は、会議を控えて国際的に不安を与えている。
  現在、厚生省は、会場周辺のホテルに対し、盛んにエイズ教育を行っているという。しかし、「正しい知識の普及」だけでは、ホテル業界がエイズに関して抱えている本質的な問題を捉えているとは言いがたい。
  マスメディアを通して、HIVの感染ルートが血液とセックスであることは漠然と知っていることと、自分自身の毎日の生活の中で具体的に理解できていることは全く別のことである。職種によって、また同職種でも作業によって、当然のことながら感染のリスクは大きく違う。HIVの感染ルートは、他人の血液、精液、膣内分泌液に触れるような作業を行うときと極めて限られているため、ホテルの各作業担当者の誰により高いリスクがあるのかを把握することや、それらのリスクの要因に触れる時の具体的処置と、その際に必要な備品の決められた場所への設置なども徹底していく必要がある。
  また、「うつらないため」の対策は、必ず「うつさない」対策を同時に含んでいなければならない。ホテルの従業員が感染している可能性もあるからである。客にうつさないための事前の予防措置の検討(特に、レストラン業務での出血など)や、感染者の雇用確保などの対応も検討すべきであろう。
  しかし、ホテル業務でのエイズに関する問題点は、被雇用者の教育だけにあるのではない。これらの具体的な予防対策を立てていくとなると、雇用者・管理者側は、教育や備品の設置に対するコストを考えなければならないだろう。また、日本全体のエイズ問題に対する理解が低いままでは、感染者の宿泊が明らかになった場合、そのホテルの利用者が減少することも起こりえる。それらのコストをどう見積もるかを業界で検討することや、ホテルの宿泊拒否が一ホテル、あるいはホテル業界のみの問題ではないことを社会に向かって問いかけるなど、企業として、あるいは社会の一員として、問題提示できることは多いのではないだろうか。
  各現場で、各職種で、各業務で、エイズに対する捕らえ方や関心の持ち方は大きく違っていることに気づく必要がある。一般的「正しい知識の普及」の限界を超えて、それぞれの立場や対象に合わせたテーマや問題提起をしていく以外に具体的な解決法は出てこないのではないか。

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