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DATUMS 1994.3
女のホテル、男のホテル

村瀬 千文  ホテル・ジャーナリスト『マイ・ホテルズ』代表

■むらせ ちふみ
 1957年札幌生まれ。津田塾大学国際関係学科卒業。外資系企業を経て、1985年出版コーディネート会社を設立、世界の高級リゾート、ホテルなどの本のプロデュースをきっかけとして、ホテル・ジャーナリストとして執筆活動を開始。今年3月にホテルを中心テーマとした女性向け高級旅行雑誌『マイ・ホテルズ』を創刊。C.H.カンパニー代表取締役。


  女性は“いいホテル”が好きである。なぜならば、“いいホテル”は女性を美しく見せてくれ、いい気分にさせてくれるからだ。「私だって、もうちょっと手をかければまんざらでないはずだワ」というのが、女性の皆心の中に秘かに思っていることで、そんな女性の夢を束の間でもかなえさせてくれる、かっこうの舞台がホテルなのである。普段はしがないOLでも、郊外の2DKに住む普通の主婦でも、ホテルという舞台に一歩足を踏みいれれば、シャキっとした制服姿のボーイがさっと寄ってきてくれて、耳心地よい言葉をかけ、レディとして扱ってくれるのだ。
  そんなわけで、自分が少しでも美しく、優雅に見られたいと願う女性は、そのためにはお金も暇も惜しまない。だから、その憧れのホテルに泊まることが目的で、時に海をも渡ってしまうこともある。「ラッフルズのロビーで優雅にアフタヌーンティーを飲むワタシ」あるいは「コートダジュールの素敵なプチホテルのプールで泳ぐワタシ」、そんな夢を夢で終わらせずに行動を起こすのが。最近の女性たちである。これはどんなに説明しても男性にはなかなかわかってもらえない点でもある。…。が、これが女性という生き物なのである。
  さて一方「いいホテル」は女性にやさしく、女性を大切にしてくれる。
  ホテルの歴史上にその名を残すセザール・リッツは、熱心な研究の末、パリのホテル・リッツでは室内照明の色をわざわざ女性の肌が最も美しく見えるものにした。そうすることによって。リッツには少しでも美しく見られたい女性達がこぞって集まり、何とか女性たちの気を引きたいと願う男性達をも常連してしまったという。
  また、ヨーロッパ屈指の高級リゾート、コートダジュールのホテルは、巧みに「見たり、見られたり」の両方が楽しめるつくりになっている。だから、客たちは誰かに見られているのを計算しながらデッキチェアに寝そべり、ロビーを歩くのである。せっかく着飾ったからには、できるだけたくさんのギャラリーに見て欲しいと願うのが女性なのである。 さて、そうした目で見てみると、日本のホテルはどうであろうか?
  バブルの時代に一気に豪華な施設のホテルがたくさん増えたけれど、どのホテルもまだまだ、男性の目でしかつくられていないような気がする。インテリアの見かけに気を取られるあまり、ハイヒールで降りると危ない階段を作ってしまったあるリゾートホテル。若い女性向けというのが売りもののホテルの使いにくいバスルームやクローゼット。パステルカラーや花柄が女性好みだと信じて疑わない設計者たち。まだまだ男性の発想のホテルが多いのが日本のホテルの現状だ。
  ホテルはその国の社会や文化の成熟度を表すバロメーターでもある。ホテルは社会の背丈以上には決してならないのである。

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