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DATUMS 1994.04
春の思案

平出 隆  詩人

■ひらいで たかし
 1950年福岡県生まれ。一橋大学卒。詩人、多摩美術大学助教授。詩の関係の著作のほか、『ベースボールの詩学』『白球礼賛』など野球のエッセイも。クーパスタウン・ファウルズの監督兼三塁手として、毎年65試合に出場。


  春になると、スターティング・ラインナップを考えるのが特別の楽しみになる。もうじき開幕なので、開幕戦のスタメンを考えながら、はやる心鎮めるのである。シーズンがはじまってしまえば、この作業は毎試合のことになる。楽しくないわけではないが、特別の、という形容がつかなくなる。
  プロ野球ファンのあいだでも、開幕投手がだれになるのかがひとしきりの話題になる。それと同じように、しかし、ちょっとちがったニュアンスで、その日、私の仲間たちはベンチ前で、固唾を飲みながら私の発表を待つだろう。私のチームの草ベースボールの開幕は、これを書いているいまから、三日後である。
  私はチームの歴史の中で、開幕スタメンの変化を回想してみる。二十年になんなんとすれば、死んでしまった奴や、すっかり姿をみせなくなった奴が、回想のメンバー表に並ぶ。毎年毎年、一年の出発点にあたって、選手には一シーズン分の期待をこめてつくるからこそ、特別なものになるのだろう。しかも、監督兼選手の私は、その思案の対象に自分の名前をふくめることになるから、複雑である。まあ、だれでもなるべくたくさん出たがるのがゲームというものだから、厚かましくなったり、遠慮しすぎたりと、客観的になるのはむつかしい。それでも、「衰えたりといえども、まだ ハズレなくてもいいかな」と思っているのは、小さな幸せのひとつである。
  打順をつくる面白さは、だれもみな思うものらしく、「私のベストナイン」といったアンケート企画が、ときどき野球特集の雑誌を飾ったりする。本場アメリカでは、もちろん日本の比ではなく、度を越したものがある。たとえばチャールズ・ノースという人は「ラインナップ」という詩を書いている。詩といっても、人を食ったものだ。「一番セカンド 中庭/二番ショート 浴室/三番センター 食堂/四番ファースト 居間/五番サード 寝室/六番レフト 玄関ノ間/七番ライト 大広間/八番キャッチャー 車庫/九番ピッチャー 台所」といったものだ。
  もっともらしいこんな調子で、ほかに、世界の都市のつどう野球チーム、身体の部分のつどう野球チーム、色彩のつどう野球チーム、各種の病気のつどう野球チーム、名作映画のつどう野球チームなどができあがっている。
  あなたも、春にふさわしい、突飛なチームの元気なスタメンを思案してみては?

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