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DATUMS 1994.5
就職:旅行業を志望する学生達

江上 節子  産能短期大学オープンカレッジ校長・助教授、早稲田大学講師

■えがみ せつこ
 早稲田大学第一文学部卒業。ダイヤモンド社にて出版、編集業務に従事の後リクルート社に入社、女性のための仕事情報誌『とらば〜ゆ』編集長、総合仕事情報誌『習慣B-ing』の編集長を歴任。編集企画室長も兼務。1991年より現職。主な著書に『伸びる会社は女性を活かすのがうまい』(光文社)、『幸せの自分さがし』(NHK出版)など。


  就職氷河期と云われる厳しい雇用環境のなかで学生はこと就職に関しては、極めて利害に敏感だ。その時代、その時代の花形産業へと就職意欲をなびかせていく。
  旅行業界が花形産業とは規定しにくいが、男子にも、女子にも就職先として例年変わらず人気が高い。ちなみ調査を見てみると、約1万人の大学4年生が答えた人気企業ランキングではJTBが13位、近畿日本ツーリストが43位となっている。5千名の女子学生の調査では4年制、短大生ともにJTBが人気ナンバー1を占めている。近畿日本ツーリストも10位以内に入っており、中堅、中小の旅行業界も30位以下には名前を連ねている。ジャルパック、ミキ・ツーリスト、名鉄観光サービス、交通公社トラベランドなどが順位を上げている。
  いろいろな調査を通じて、たしかに旅行業界への就職人気は高い。しかし、これは、多くの調査が、まだ現実には就職活動をしていない段階での大学生の意識を聞いているところに理由がある。あくまで、単なる憧れのイメージや、漠然とした夢に近い思いで旅行業界を志望先として捉えているに過ぎない。
  現実に会社訪問の時期に入り、多くの先輩から、旅行業界での仕事の実態を聞いたり、見たりすると考えが変わっていき、就職する会社としてはどうかな……という風に学生は進路を切り替えていく。
  「海外旅行が好きなだけでは、務まらないぞ」「旅行の企画なんて、地味で雑用がほとんどだから……」「添乗員は、まず肉体労働がすべてよ」。
  先輩たちから語られるよ様々な仕事の厳しさが、学生たちの甘い期待を打ち砕いていく。したがって、どんなことをしても、絶対に旅行業界に就職したいと考える学生は、調査の数字とは違い実際にはそれほど多くはない。
  とは云うものの、それまでもまあまあ人気がある業界だ。学生たちの動機を探ってみると3つの理由が認められる。
  まずは、旅というのは人生の夢であるということ。見知らぬ土地、初めての風景、食べ物、人々……こうした出会いが、自分の中に新鮮な感動を創り、新しい自分を発見する。旅の持っている魅力自体にひかれて、旅と関わる仕事をしたいと考えるグループ。
  次に、国際性の息吹をいつも感じられる仕事内容、職場に身を置きたいと望むグループ。3つめは、高齢化社会に向って旅行産業は飛躍的に伸びる成長産業だと信じているグループ。いずれの動機にしても、共通している仕事観は、楽しみながら働きたいという考え方だ。奉仕するとか社会のためにとかの大義名分よりも、自分自身の人生にとって楽しいことを仕事にしたいというネアカはエンターテイメント型の学生たちである。
  終身雇用システムが崩れつつあると叫ばれる今日、会社ロイヤリティを厚くもって働く人々は少なくなった。会社のためによりも、自分のために働くことが当たり前になるこれからを考えると、旅行業界を志望する学生たちはひょっとすると先を行っているのかもしれない。

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