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DATUMS 1994.05
平成米騒動第一幕・米屋からの提言

俵干 玄米  米穀店経営

■たわらぼし げんまい
 俵干玄米氏は、首都圏で40年以上の歴史をもつ米穀店を経営する実在の人物。諸般の事情により、ペンネームで登場していただきました。


  かかりつけの医師を持つほうが良いと言いますが、米は信用できる専門店から買いましょう。米屋では長年のお客様との信頼関係からなっていますので、あらゆる手段を使い遅滞なくお得意様に配達できるよう粉骨砕身して職務を全うしています。月に1回だった配達が品不足で4回になり、1回ごとにさまざまな質問とその応答に苦慮しようとも、どこまでも誠意をもって対応いたします。
  町内の他の米販売店がすでに閉店していること、また近所のスーパーマーケットの米が売り切れてしまったことに加え報道機関による米不足扇動報道により、対抗上わが店も3月1日より21日まで閉店開業としました。最大の問題は当社の補給線も危うくなってきたことです。入荷全体の5割を占める加州、中国米が入荷しません。何日遅れるという情報でもあれば、お客様に何日頃入荷するからそれまで待って下さいと言えますが、それすら全く見通しの立たない中では、たとえ売り惜しみと言われても細々とお得意様に分配するしかありませんでした。経済後進国である中国から遅れるのは仕方ないとして、先進国を自負する米国からの入荷が何日頃になるのか皆目見当もつかないというのはどういった事態に成ってしまっているのか?いつまでこのようなことが続くのか?憶測が飛び交うだけで正確な情報がありませんでした。
  泰(タイ)米は2月24日に初めて入荷しました。毎日我が家の御飯はタイ御飯でした。お客様に販売するのに自ら食べずに聞いた話だけでは説得力がありません。先ずは泰米100パーセントで挑戦しました。加工用と主食用の泰米の違いも分からない無知蒙昧なるマスコミによって物凄く臭くてまずいものであると洗脳されていたので、どれほどのものか怖さ半分で箸を取りました。臭い香りは無く話ほどは不味くはない。このくらいならば、まあ売れるであろうというのが第一印象でした。次の日からは毎日泰米入り御飯となりました。食事のときだけはいつも外国旅行の気分です。多くの失敗を経た結果、泰米3対糯米1で混ぜるのが最も美味しくできました。
  閉店開業時にお見えになったお客様も色々な方がいらっしゃいました。初めてお見かけする方が「いつも買っている**ですが、お米ありますか?」と来店します。また今後はずっとお宅で買うから売ってくれという人も居ました。電話でも同様で「いつも買っている**丁目**番**号の**ですが、お米ありますか?」と注文なさいます。本当にいつも買っている方は「**丁目の**ですが、お米お願いします。」とおっしゃいます。電話の鳴るのが怖かった日々が続きました。
  泰米は食べ物ではないかのごとく話も聞かない方、うちで炊いたタイ御飯を試食し糯米とともに買っていかれる方、なかには何件も店をまわって断られ続けたのか罵詈雑言を浴びせてくる人もいました。また、次の売り出しは何時にやるのか?何時入荷するのか?予約はできるのか?等質問攻めにする人。こういう方には予定は不明なので予約もできないし、売り出すほどの品数も無いことをにこやかに答えながら、口にゃ出さぬが心の内で「うちにはお宅に売る米はない、いつも買っている店で買ってくれ!」
  当店でもお客様にはいろいろと迷惑をかけてしまいました。閉店開業という卑怯な営業方法ではありましたが、お得意様を守るという信念は間違っていなかったと思います。

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