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DATUMS 1994.06
政府データベースの公開運動――インターネットを市民の基本情報ベースに

岡部 一明  ジャーナリスト、市民情報プロジェクト(サンフランシスコ)代表

■おかべ かずあき
 1950年、栃木県生まれ。1979年、カリフォルニア大学自然資源保全科卒業後、日米の市民団体勤務を経て、現在、サンフランシスコ在住。著書に『パソコン市民ネットワーク』(技術人間社)、『多民族社会の到来』(御茶の水書房)、『日系アメリカ人:強制収容から戦後補償へ』(岩波書店)、『社会が育てる市民運動――アメリカのNPO制度』(社会新報)など。


  メールの返信が5、6秒で返ってくる。フォードの昨年の事業内容が見たいという電子メールを書式通りに書いて出し、ではネットから抜けよう、と終了のプロセスに入ると、突然「新しいメールが届きました」というフラッシュ。ぎくりとして電子メールに戻ると、フォード社の財政報告書がもう届いている。複数のメールに分かれた膨大な情報量。ウーム、これが最近言われ出した「電子メールFTP」か。電子メールなのに、ほとんどデータベース検索の感覚で情報が出てくる。
  いきなり、四次元物語のようで申し訳ないが、これはインターネットを通じて、米証券取引委員会(SEC)のEDGARデータベース情報にアクセスしたときの様子だ。インターネットは、日本でこそまだなじみが薄いが、全世界で2,000万人がアクセスする史上最大のコンピュータ・ネットワーク。「無政府主義的」とまで形容される分権性が魅力で、たとえば今の例では、インターネットへの全面接続(IP接続)がなくとも、電子メールのデータベース情報アクセスが可能になっている。
  アクセスしたEDGARデータベースも大物だ。株式を公開する米企業にSECが義務付けた情報公開のデータ。1996年までに、1万5,000企業、年間1,100万ページの情報を集積する「世界最大の企業情報データベース」になるという。これが、ネーダーグループなどの働きかけで、今年はじめからインターネット上で無料公開されている。インターネットの拡大と歩調を合わせ、新しい市民の情報公開運動が生まれている。
  「政府データベースの公開は、市民の政府コントロール能力を高める」とネーダーグループのジミー・ラブが強調する。「納税者資産プロジェクト」(TAP)のディレクター。「政府情報は税金でつくられた納税者の資産。納税者がそれにアクセスするのは権利だ」という論理で主要政府データベースの公開を迫る。現在、政府データベースの多くは民間会社を通じて高い料金で提供されているが、これを、インターネット上でほとんど無料で提供させるのだ。例えば、次々に修正が加えられる議会法案全文に遅滞なく市民がオンライン・アクセスできれば「ロビーイストに独占されていた力が市民のものになる」。」EDGARを公開すれば、例えば『よりよい世界のためのショッピング』を出版する経済優先評議会(CEP)の情報収集能力は高まり、「市民のインフォ―ムド・アクション(情報を得た行動)が強化される」と言う。
  彼らの運動は、政府印刷局(GPO)を通じて政府データベースを一元提供する「GPO電子情報アクセス強化法」を昨年、成立させた。今年に入って上記EDGARや連邦議会のJURISなど超一級の政府データベースの公開がはじまり、現在は同じく超一級・司法省JURIS法律データベースをめぐる攻防が過熱している。カリフォルニア州議会情報など、州段階のデータベースも市民の運動で次々に公開されだした。インターネットは、著作権のない政府情報という力強い援軍を得て、市民の基本的情報ベースとしての姿を明らかにしはじめた。

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