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DATUMS 1994.08
日本におけるクルーズの可能性

池田 良穂  大阪府立大学海洋システム工学科助教授

■いけだ よしほ
 1950年北海道生まれ。1978年大阪府立大学大学院博士課程修了後、同大学同学科助手、講師を経て、現職。船舶の波浪中の運動性能、船酔い、高速船の性能、海洋構造物の流体力学、ウォーターフロント計画などが専門。主な著書に『世界の客船'93』(舵エンタープライズ)、『静かな海と楽しい航海』(星雲社)、『船ができるまで』(偕成社)など。


  今、クルーズが大ブーム。年間470万人の人がクルーズを楽しみ、その産業規模は約2兆円。10万トンを越え、旅客定員3,000名の超大型クルーズ客船も近々お目見え。クルーズがレジャー産業の中に確固たる基盤を確立した。こんな見出しが業界誌の紙面に踊っている。ただし、これはすべて北米の話である。
  日本でも、平成元年がクルーズ元年と呼ばれ、数隻の本格的なクルーズ客船が稼動を始めた。昨年の実績によると、クルーズ客船を利用した人は約21万人。クルーズ元年から5年経過して、北米市場の5%弱の規模にまで成長した。日本のクルーズ客船運行会社は、その業界団体である日本外航客船協会を中心としてクルーズ人口100万人を目標に一大キャンペーンをはり、日本におけるクルーズ市場の拡大に取り組んでいる。
  旅行業者もクルーズに積極的に取り組みだしている。大手の会社でもクルーズデスク等を設けているところも多い。北米でのクルーズ市場の拡大においても旅行業者の果たした役割は極めて重い。現在では、クルーズの95%以上が旅行業者によって売られているといわれる。クルーズ運航会社の首脳に「戦略的には旅行代理店が顧客であるといっても過言ではない」と言わしめるほどである。クルーズだけを扱う旅行代理店の数も多い。これは、クルーズという商品が専門的な知識を必要とするからに他ならない。他のレジャーとは違った要素が多いうえに、クルーズ客船の性格にもきわめて広いバラエティがでてきたからである。いわゆる豪華客船のイメージだけが今のクルーズではない。それぞれのお客の好みにぴったりと合うクルーズを選びだし、それを提供することのできる専門的な知識が旅行業者に求められる時代になったのである。このため、北米のクルーズ運航会社は、自社のクルーズの性格を旅行業者および顧客に知ってもらうことに全力を挙げている。この「教育」こそクルーズ市場を拡大するためには欠かせないとの共通認識をもっている。
  日本にクルーズ客船は、比較的「豪華」だけが前面に出たイメージが先行してきているが、もう少しそれぞれの個性を主張すべきではないだろうか、また、海外のクルーズに比べると割高な料金も問題である。もうすこし、リーズナブルな料金が可能となる事業形態、ハードとソフトの選択などが今後は必要であろう。
  クルーズにあっては、乗組員や他の乗客とのコミュニケーションが欠かせない。これがなければクルーズの楽しみは半減するといってもよい。この点では日本のクルーズ客船の「にっぽん丸」がアラスカ、カリブへのクルーズを行うが、この意義は大きい。北米のクルーズのメッカであるアラスカとカリブ海を、言葉の不自由を感じずに、日本食も堪能しながら巡ることができるのである。長期クルーズは世界的に見るともはや潮流ではない。このアラスカ・カリブ・クルーズもフルクルーズだけでなく区間売りを増やし、日本からのフライクルーズのパッケージを積極的に売り出すことが、日本のクルーズ市場の拡大、特に若い層への普及には効果的であると思う。

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