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DATUMS 1995.01
「義理道楽」からのレジャー・シフト

井原 哲夫  慶應義塾大学商学部教授

■いはら てつお
 1939年生まれ。1963年慶應義塾大学経済学部卒業。現在、慶應義塾大学商学部教授。また、1993年よりレジャー・サービス産業労働情報開発センター理事長。主な著書に『「豊かさ」人間の時代』『ポスト大企業体制』『コスト感覚入門』『消費者の経済学』など多数。ほかに「原さとる」のペンネームで『地底元年』などのSF小説の執筆も手がける。


  レジャー活動を選ぶときでさえ、人間関係が影響を与えるものである。昔の地域社会に見られたように、人間関係はストック型であった。なにをやるにしてもあいては一緒だったのである。もちろん、仕事は協力しあいながらやった。仕事仲間の家族に不幸がおきればみんなかけつけた。忘年会も新年会も、また旅行さえも同じ仲間で楽しんだ。これに家族づきあいが加わった。
  仲間が行うレジャー活動に参加しないと、コミュニケーションがうまくいかなかったし、「つきあいが悪い」と非難されもした。しかたなく、好きでないレジャー活動にもつきあうことになった。その意味で、これを「義理道楽」という。この時代の企業の三大義理道楽といえば、ゴルフ、カラオケ、マージャンであった。
  課内旅行は全員参加であった。夜はかならずといってよいほど宴会になった。そして、深夜までカラオケバーは繁盛した。次の日はそろって見物にでかけた。史跡、美術館などがその対象になった。テーマパークがあれば高い入場料をおしまなかった。
  このように、全員参加型のレジャー活動の場合には、だれもが楽しめる、参加できるといった方がよいことが前提になった。一部の人しか楽しめないレジャーを組み込むと、幹事に対する苦情が殺到した。自然に、「義理道楽」になっているものか「見物」がその対象になってしまう。もちろん、宴会もこの一つである。
  日本の社会でも、このような人間関係が変わりつつある。会社でいえば、仕事は一緒にやるが、他の行動の相手は別の人である。若い頃からの友人、趣味を共通にする仲間などである。つきあいが悪くても白い目で見られなくなってきて、いま変化が加速しているようにも見える。平均として行動の仲間規模は縮小する。共通の能力をもったものが行動をともにするようになる。この過程で、従来型のレジャー行動を対象にした供給者の市場シェアは低下していく。現にこのような調整過程にともなう現象が多々見られるわけだ。もちろん、不況や為替レートの変化が大きな影響を与えているのだけれども、長期的には日本社会でいまおこっている人間関係の変化を見ておくべきだろう。
  基本的には全員参加型のレジャーから、共通の能力を目的をもったグループを対象にしたレジャーへのシフトである。若者についてはたいぶ前から見られるが、中高年の中にも次第にこの傾向が浸透してきているようだ。趣味の数はきわめて多様なのだから、万人向きにそろえることは不可能になってくる。どうしてもターゲットを意識しる必要がでてくる。言い換えればレジャー・サービス商品の特徴づけが必要になってくる。もちろん、万人参加型のレジャー・サービス商品もその選択肢の一つである。当分は新たな市場を目ざして試行錯誤が続きそうである。

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