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DATUMS 1995.06
シンガポールの高齢者雇用政策

刺草 醸  フリーライター

■いらくさ よん
 フリーライター。各国の移民政策、外国人労働者雇用政策とその実態など、特にアジア地域でフィールド調査・研究を続けている。


  およそシンガポールという国は、歯切れのいい国だと思う。
  「歯切れがいい」というのは、社会の諸問題に政府が時をおかずして対処し、概ねその効果が政府の意向どおりに現れるか、そうでなければ、現れるまで次々と策を打ち続けられるという、その善し悪しはともかく、スピーディーで直線的な社会の働きをそう感じるのである。これには、コントロール及びやすい小さな国家、カリスマティックな指導者とほぼ単一政党による強力な政治。行政運営、その政府が実現した経済成長によってもたらされた快適な生活をエンジョイし、とりあえずは政府に絶大なる信頼をおく国民と等々、さまざまなこの国独特の背景がある。
  この国の労働事情も、その「歯切れのいい」現象の一つだと思う。1965年に独立したシンガポールは、以来、地域屈指の高い経済成長を遂げてきた。ここ30年弱の平均実質GDP成長率は、約9%にも達している。
  積極的な外資誘致政策によって、多くの多国籍企業が製造業を中心としてシンガポールに進出し、多数の雇用機会を創出した。その結果、シンガポールの失業率は1962年の約15%から、69年約7%、そして79年には3.4%にまで低下し、80年代には深刻な労働力不足問題を抱えることとなった。
  労働力不足への対応は、外国人労働者の許容、女性・高齢者の活用等さまざまな方面で試みられた。中でも今日人口約300万人のおよそ1割にも達したと見られている、外国人労働者については、それが最も容易な解決策である反面、多民族国家であるシンガポールにとっては流入する外国人の民族バランス等微妙な問題も孕んでおり、流入に起因する諸問題の発生を懸念する政府が、外国人雇用課徴金の大幅な引き上げ等をもって規制の強化を試み続けている。
  そこでいっそう自国民即ち女性・高齢者の雇用が奨励されているわけであるが、女性に関しては、保育所の充実等その労働環境の整備が進められ、一方高齢者雇用対策として1993年4月、定年年齢がそれまでの55歳から60歳に引き上げあられた。
  当該改正法においては、4〜5年後に64歳へ段階的に引き上げることが計画されている。同法には、シンガポールらしく「高齢を理由として労働者の解雇がなされた場合、雇用主は5,000Sドルの罰金と最高6か月の留置処分を受ける」と強力な罰則規定が設けられており、その効果を狙う政府の意気込みが感じられる。
  しかし労働者の強制積立であるCPF(中央積立金)の引き出し可能年齢が従来どおり55歳にとどめられていることから、どれだけの高齢者が、引き続き労働することを希望し、労働力不足の解消に資することになるかついては、今後の労働統計を待たなければならない。
  ただしシンガポールのこと、期待された効果が現れなければ次なる策が打たれることが予想され、いずれ働く高齢者が増えていくのかも知れない。

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