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DATUMS 1995.06
米国B&Bにみる高齢者の生き方

鳥居 ヤス子 フリーライター

■とりい やすこ
 1931年台湾生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。アメリカ大使館勤務を経て、国内・海外の自然食・有機農業の調査、レポートを中心に執筆活動を行う。1987年、ボランティア・グループ「アフリカ・ツリーセンター」を支援する会を結成。南アフリカ共和国の黒人社会で植林と自給農業の普及活動を行っている現地のNGO African Tree Center を支援、同会代表。『自然派レストランガイド』(編著、柴田書店)、『やさいをそだてよう』(児童書、冨山房)など、著書多数。


  ここ数年アメリカではB&Bブームが続いている。手軽な料金で、一夜の宿と朝食を提供する英国のベッド&ブレックファーストはよく知られているが、実は本場英国以上にアメリカではいま、B&Bが普及し、人気を博している。だくさんのB&Bガイドブックが出版されているが、あるガイドブックには1万1,000軒もリストされている。その中には退職者のB&Bも少なくない。
  私がアメリカのB&Bを知ったのは十数年前ロスアンゼルスに滞在中、本屋でB&Bガイドブックをを手にしたのがきっかけだった。早速近くの一軒に電話してその夜の宿泊を申し込んだ。その初めてのB&B体験が大変楽しかったので、それ以来アメリカでの宿はB&Bと決めている。
  これまで出会った多くのB&Bホスト・ホステスの中で、人生をいきいきとと楽しむすてきな高齢者の姿は忘れがたい。老人の町として有名なアリゾナのサンシティーでB&Bに泊まったことがる。私達夫婦がお世話になったのは、当時73歳のビルさん宅だった。航空会社退職後十数年この町に住んでいるというビルさんは前年に奥さんを亡くして独り暮らし。2LDKの一室に3日間泊めていただいてサンシティーを見学したが、老人のやもめ暮らしのイメージとはほど遠い積極的な暮らしぶりに驚かされた。
  最初の日、夜明け前にドアをノックする音で起こされ、テニスに行こうと誘われた。早朝のテニスコートは元気な老人で大にぎわい。一汗かいて帰宅して朝食をとると、今日は病院でボランティアの仕事があるからとビルさんは出かけていった。午後はホビークラブで金属加工の作品に取り組み、夕方帰宅したビルさんは、もうひ一つの趣味、ハモンドオルガンのみごとな演奏を聞かせてくれた。「今夜はデートで遅くなるので先に休んでください」とおしゃれをして出かける。
  ビルさんの毎日はスポーツ、趣味、ボランティア、デートとスケジュールでびっしり。忙しいのに家の中は勿論、広い家の庭の手入れも怠りない。その上B&Bに登録して客をもてなす余裕をもつ。老後はこうありたいとつくづく思った。
  忘れられないもう一人はノース・ハリウッドにあるラマイダ・ハウスの60代の女性ヘレンさん。
  娘さんと二人で南欧風の優雅な邸宅内に8室の宿を営んでいる。プチホテルといった感じのロマンティックな隠れ家だ。ステンドグラスをふんだんに使ったソラリアムに続く広い庭には花が咲きみだれ、朝食のテーブルにはヘレンさん丹精のバラが香る。庭の新鮮な野菜や果物が添えられた自慢の手料理は自然派の客にはなによりうれしい。ステンドグラス・アーチストである娘の美的センスと母親の暖かい心配りが、エレガントで居心地の良い空間を作り、客の心をなごませる。
  B&B経営は元気な高齢者にとって、生き甲斐と副収入の一石二鳥ではないだろうか。

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