[BACK]
DATUMS 1995.08
“個人旅行先進国”米国の旅行業界:ASTA(全米旅行業協会)

細川 善弘  JTB労働組合中央執行副委員長

■ほそかわ よしひろ


  アメリカの旅行業界に働く人たちの労働条件は、サービス産業全体の中でも比較的低い方であり、金融機関のカウンターと旅行業のカウンターの平均賃金はほぼ同じと言われています。また、いわゆるパパママエージェント(個人経営、単一店舗)が多く、労働組合が組織化を図るような大きな企業も少なく、業界全体として労働条件の向上にむけた取り組みを行っている状況にはありません。
  経営側も旅行業の社会的有用性を高め、ひいては生産性の向上を図るといった考えに立つのではなく、いわゆる代売中心の経営を進め、キャリアーなどからの増売手数料などにより収益増をめざす発想になっています。
  したがって、業界全体としては、日本以上にキャリアーを中心としたサプライヤーの政策に、企業収益が大きく影響を受けることになっています。今年になって大手キャリアーが導入したプライスキャップ制を契機に、旅行販売ノウハウの向上にむけた社員の教育・研修の取り組みや、消費者に対する旅行情報提供の対価としての取扱料金的なものの収受の動きなど、チケット代売を中心とした経営体質からの変化を目指した動きが出てきつつあるのが現状です。
  しかし、その一方で、プライスキャップ制によって旅行業界が再編され、競争相手が減少することで収益が安定すると考えている企業もあり、業界全体として業態の変革に向けた動きにはつながっていないようでした。
  現在、日本の業界において懸念されている、キャリアーのFFPに代表される顧客の囲い込みや、コンピュータネットワークの発達によるサプライヤーから消費者への直販化の動きについても、サプライヤーの直販化の動きに対する懸念よりも、ネットワークの発達によるチケットレスやペーパーレス化のメリットが、むしろ企業としての事務作業の効率化に結びつき、さらに旅行業者としてもインターネット内にモールを設けることで販売促進につながると期待している部分が強く、日本との認識のギャップを強く感じました。
  このようなアメリカ旅行業界の環境変化に対する取り組みや、キャリーをはじめとしたサプライヤーに対する認識が日本と大きく異なっているのは、アメリカの旅行業界が、日本のようにJRといった超巨大企業がなく、大手キャリアー間の企業競争のなかで発達してきた経緯と、労働力の社会的流動性の高さによって、企業内に旅行業のノウハウを持った人材の蓄積を行わずに、一定の人材の確保がし得る社会環境に起因しているのではないかと感じます。
  最後に、日本とアメリカの旅行業界を取り巻く環境は大きくは異なっていないにもかかわらず、産業動向などが違ってきているのは、アメリカの旅行業界の社会的な存在価値とその労働条件とが大きく乖離していないことが原因ではないかと個人的な感想を持った次第です。


[BACK]