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DATUMS 1996.10
調査に行く、そのものすべてが“旅”
 ―「アースウォッチ」で野外調査研究者とボランティア


小林 俊介  アースウォッチ・アジア設立準備委員会事務局長

■こばやし としすけ
 1941年東京都生まれ。61年セント・ジョセフ・カレッジ卒業。エール・フランス国営航空会社入社。85年ホテル・メリディアン・チェーン日本地区支配人、91年(株)テクノバを経て、92年アースウォッチ・アジア設立準備委員会を発足、現在に至る。エール・フランス及びメリディアン在職中、ヨーロッパ、アメリカ、アジアなどを度々歴訪。


  アースウォッチは世界各地で地球上の変化を調査している研究者を支援し、その活動を助けるボランティアを動員している。ボランティアは専門家の指導のもとで、変化の実態や影響などを自らの目で、肌身で知ることができる。参加者は第一線の研究者によるプロジェクトに参加できると同時に体験学習、生涯学習の場として、また環境教育の実践としてかけがえのない機会を得ることができる。
  アースウォッチの野外調査に参加するボランティアは、何度も海外旅行をした人、初めての人、定年退職後の自由な時間を充実させたい人、ライフワークを求める人、日本では見られない熱帯雨林、サバンナ、珊瑚礁などの大自然に直接触れたい人、ニュービジネスを模索する人、仕事がマンネリ化してリフレッシュが必要な人、遺跡の発掘作業で過去から学びたい人、クジラ、イルカや動物の行動などに興味のある人、途上国の援助とはを真剣に考える人、貧困、人権、環境などの諸問題を解決したい人等々さまざまな動機で旅に出る。そして研究者と共に自然を観察することによって、植物や動物、昆虫など多くの生物が、人間の旺盛な生存活動のために痛めつけられたり、追いやられたりしている現実の姿を、湖水や海の水が汚され、樹が枯れたり土壌などが変質していることを体験する。
  調査地には文明の利器もない、現地で採れた物を食べ、太陽と共に起居する。それでも人間は生きられる。それも楽しく生きることができる。調査の実践を通じて、どんな自然条件のもとでも生き残れるサバイバル技術や、人間が生きていくうえで本当に必要なものは何かということを学ぶ。また、言語、宗教、皮膚の色などが異なる人々が調査地で寝食を共にすることで、本当の意味での国際化や文化交流に気づき、人の心には国境がない、みんな同じ人間同士なんだと感じる。
  近代科学、なかでも生態学の発展により、人間も自然を構成する一員であり、自然なくして人間の生存もあり得ないことが明らかになった。しかし、文明が高度化するにつれて、人間は自然から隔離された人工環境に住むようになった。人工生活環境に慣れきってしまった人間がある日突然、大自然の中に投げ出されると、最初は戸惑いや不安を覚えるようだが、なにかしら懐かしさを感じてホッとした気分にもなる。そして自然の中で生活し、自然と親しみ自然を味わっているうちに、長い間忘れていた、自然と共存する人間本来の本能や能力そして知恵を取り戻すようになる。
  普通では行けない人里離れた自然での非日常的体験、そこには地球と対話ができる旅の始まりがある。世界は広い。地球はデカイ。

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