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DATUMS 1996.12
「労働界」これからどうする!?

中野 麻美  弁護士・なかのまみ法律事務所

■なかの まみ
 1979年弁護士登録。日本労働弁護団常任幹事。派遣労働ネットワーク代表。


  96年経済白書は、日本的経済システムは転換期にあるとし、金属疲労で時代にマッチしなくなった日本的雇用システムを、労働者の生産性に応じて賃金を決定し、国際環境の変化や産業構造の変化によるミスマッチに対応できる多様で流動的なシステムに転換させるべきだとした。また、労働白書は雇用創出と能力開発をかつてなく重視した。労働政策の重点を、市場メカニズムを前提にした労働市場の調整機能の修正・補完に置き、規制緩和をキーワードに、労働行政の機能をそうした方向にシフトさせるかに読める。これらは、以前から経済界で言われ続けてきた。その集大成ともいうべき日経連「新時代の日本的経営」(95年6月)が大きな波紋を投げかけたことは記憶に新しい。
  転換に向けた舵取りがこれから本格化する。多様化・流動化が、日本的雇用システムの周辺に位置づけられた女性から、中心をなす男性労働者に及ぼされるということだ。すでに、私たちが取り組んできたホットラインには、退職強要や解雇、賃金や仕事、勤務場所の一方的な不利益変更などの相談がひっきりなしだが、その一方で、性別・年齢問わず「嘱託」「契約社員」といった有期雇用の急速な拡大を見ることができる。労使交渉による賃金等労働条件の集団決定メカニズムが、労働者の生活確保という基本的機能を失いつつあることも深刻だ。「能力と実績」本位の処遇制度や年俸制が、処遇の差別化とともに、賃金決定に向けた労働者の自己責任を強め、「春闘が成り立たなくなる時代」を先取りしている。使用者のやり方こそ違法なのに「不利益を蒙るのは働きが悪いから」「期待に応えられないあなたが問題」として労働者に責任転嫁する本末転倒も目立つ。苛めによる被害の訴えが「イジメ 110番」に殺到しているが、こうした職場のハラスメントは(セクシャル・ハラスメントを含め)労働者の自己責任が強調される労使の関係や、労働市場において買手=使用者が力を持つところから構造的に発生する使用者の権限濫用だ。
  しかし、働く側も負けてはいなかった。丸子警報器事件第一審判決は、臨時採用ゆえの賃金格差が20%を超えたら公序に反して違法・無効と述べ、多様化時代の賃金決定のあり方に警鐘を鳴らした。いままで超えられなかった雇用形態の壁を乗りこえようとする動きがでてきた。また、ILO 156号家族的責任条約の批准を受け、労働組合は、家族的責任を配慮した男女共通の新たな労働条件づくりに歩みを進めた。97年は男女雇用機会均等法の改正も予定される。日本的雇用システムの転換がいわれる時代だが、労働者のヘゲモニーで差別的雇用の構造こそ転換させていきたい。
  さらに、規制緩和の大合唱のなか、対象業務の拡大をねらった労働者派遣法改正だったが、派遣先企業の責任を強化させ、派遣労働者の雇用の安定と労働条件確保に向けた改善が行われた。ホットラインに寄せられた派遣労働者の声から、法律の不備を改善するよう働きかけたネットワーク運動が、流動化時代のルールづくりにつながった。97年は派遣法や職業安定法のさらなる規制緩和が予定され、労働者の雇用と生活のための新しいルールのあり方が本格的に問われることになるが、「有給教育訓練休暇」など、スキル・アップが自己責任でなく人権として保障される新しい社会システムも展望したい。
  労働条件決定の個別化、雇用の多様化・流動化は、労働組合や社会連帯のあり方を鋭く問うことになる。これからは、横のつながりを重視したネットワーク型の運動も大きな社会的影響力をもちそうだ。雇用から生じる矛盾が個々の労働者の責任にさせられるときこそ、一人ひとりが大切にされ個性が見える労働組合であって欲しい。また、裁判所で労働協約による労働条件不利益変更の効力が問われているように、企業別労働組合は、同じ職場で働く労働者の多様な利害を代表して交渉する資格の有無を問われることになろう。日本的雇用システムを構成してきた労働組合も、これらの課題をかかえるなかで自ら転換を迫られる時代がきた。

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