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DATUMS 1996.01
あなたのこころの「プロパティ(資産)」は何ですか?

恵  小百合  (社)日本ナショナル・トラスト協会事務局長、江戸川大学助教授

■めぐみ さゆり
 1950年生まれ。東洋大学建築学科、東京大学大学院博士課程建築環境工学専攻、(財)政策科学研究所主任研究員を経て、92年より江戸川大学社会学部応用社会学科助教授、95年より(社)日本ナショナル・トラスト協会理事・事務局長。


  私の旧姓は、私にとって「プロパティ」、かけがえのない資産である。鹿児島県奄美大島の姓で、祖先が島津藩から名字帯刀を許された時、大島は一文字姓を、琉球は三文字姓を名乗るよういわれ、我が祖先は「惠」を選んだ。この話を叔父から聞いて以来、名前の様な名字に深い思い入れとこだわりを持っている(結婚して無念にも姓が変わってしまったが、がんこに私は、旧姓を使い続けている)。
  ナショナル・トラスト運動は、100 年前に英国で始まった。産業革命当時の社会の大変革の中で、労働者の劣悪な居住・労働環境と福祉の改善などをすすめていた婦人の社会活動家、庶民派弁護士、教区の牧師の3人の市民が始めた運動である。革命により、成功者と失敗者、乗り遅れた者とに明暗が分けられ、資産家の没落に伴い革命以前にまして大地主たちは、領主没落により解放された一般農民や地域の人々が、残っている自分たちの羊の放牧地や雑種地、水辺に立ち入ることを厳しく制限するため、土地を柵で囲い込み始めた。3人の市民は、「1人の100ポンドより、100人の1ポンド」をモットーとする募金を通して、これらの土地を買い取り、逆に一般の人々、特に寄付をした会員のために囲い込み、絶対に譲渡不能、公開を原則とする運動を展開した。地主としての保存が最も確かな手法だったからだ。地主が守るといえば、例え女王陛下の命令でも拒否できるナショナル・トラスト法と関連税法を英国は持っている。
  日本では、1964年に鎌倉の鶴ヶ岡八幡宮の裏山にマンションが建つことになり、作家の大佛次郎氏が「未来の子どもたちの美意識と品位のために」ナショナル・トラスト運動による土地の買い取りを提唱し、1500万円の寄付が集まり、保全したのが始まりである。
本当に身近な環境に美しい自然、歴史的に価値のあるものが厳然とあって、幼いころから感性を刺激されることにより、自然の持つ力、人間の関わり方を知ることができる。マスコミのフィルターを通してつくられた間接情報やヴァーチャルリアリティによる疑似体験がどこまで人間の感性を育てられるか疑問である。本物を知らずに間接情報だけで育った世代が、この世の中の意志決定者、執行者になる時代がすぐに来るのであるから、人間が、この地球を元気にする力を保つため、身近な地球の窓口である自然環境を通して、地球の鼓動を聴き、そして先人達が築き上げてきた地球との付き合い方の知恵をも学び、継承したい。
  あなたの身近なところにもナショナル・トラスト運動地があります。もしなければあなたのこころの「プロパティ(資産)」を子孫のために保全する運動を起こしてみませんか。

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