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DATUMS 1996.01
変化する産業構造と労働組合

小野 晃  財団法人連合総合生活開発研究所(連合総研)主任研究員

■おの あきら


  市場経済化と開放経済化が進み、世界経済はメガ・コンペティションの時代へと突入し従来の国際分業の枠組は大きく変化している。このため、我が国経済、産業は大幅な構造調整を迫られており、さらに円高や金融機関の不良債権問題などが相まって厳しいデフレ圧力が続いている。かかる経済情勢の下で失業率は史上最高水準を記録するなど雇用問題が深刻化しており、勤労者の労働条件や雇用を守るべき労働組合にとってはまさにその力量が問われる正念場を迎えていると言えよう。
  こうした中、連合と日経連は昨年来共同で作業を進めてきた新産業・雇用創出研究会報告をとりまとめた。この報告書は、今後成長が見込まれ、かつ、生活に深いかかわりを持つ住宅、情報・通信、環境、福祉・医療の4分野を取り上げ、将来の産業、雇用の展望を行うとともに、雇用創出を実現するための具体的施策を提言したものである。産業、雇用の将来ビジョンについては、政府の審議会、研究会や民間シンクタンクなどによっても発表されているが、本報告書には、これからの産業、雇用を担う当事者であり、かつ、賃上げなどを巡って利害が対立する労使が、共通の事実認識の上に立って新しい産業、雇用の創出に向けた道筋について合意したものであるという点において画期的な意義を有するものであると言える。
  これまで我が国の労働組合は個別企業、個別産業の雇用の確保に重点的に取り組んできており、このことが我が国の失業率を国際的にみて低位に保ってきた一因でもあった。しかし、産業、雇用構造が大きく変化すると予想される中で雇用創出を実現していくためには、将来の産業発展基盤をしっかりと見据えた上で情報インフラ、知識インフラ、社会インフラといった各種のインフラストラクチャーの整備に積極的に関与するなど従来の個別政策の枠を超えたより包括的な産業政策の構築が労働組合にとっても大きな課題となろう。
  こうした雇用創出と並んで今後は雇用の質に関する問題、すなわち、人事・処遇制度の変化への対応が一層重要となると考えられる。いわゆる能力主義人事管理、個別管理が広がると、キャリア管理や処遇のあり方などについて、企業と個人の間の個別的な交渉や調整で決まる部分が次第に増えると考えられ、こうした点をとらえて一部には労働組合の機能低下を主張する声も少なくない。
  しかし、働きぶりの評価基準や評価方法一つをとってみても、適用される制度や交渉・調整のルールづくりなどは企業と個人の話合いには馴染まず、むしろ、個別的な交渉や調整の領域が拡大すればするほど企業と労働組合による団体交渉や労使協議による集団的問題処理メカニズムの重要性が高まると言える。その意味においても人事・処遇制度面における合理的なルール設定に向けた労働組合の一層の取組みを期待したい。

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