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DATUMS 1996.01
エンパワーメントする女性たち

酒井 和子  労働組合東京ユニオン書記長

■さかい かずこ
 1947年生まれ。豊島区で外国人や女性の相談活動、無農薬野菜の共同購入などに取り組む市民グループ「ぐるーぷ赤かぶ」代表。母子家庭仲間とワーカーズコレクティブ「赤かぶ弁当」を共同経営し、地域の中で働くことと生活することを模索している。コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク共同代表。

  昨年9月に北京で開かれた世界女性会議で、日本の女性が男女賃金格差を訴えた。参加した各国の人々は「日本には労働組合がないのか」と驚いたという。なにしろこの10年、先進国で男女賃金格差が広がっているのは日本だけなのだ。労働組合は何をしているといわれても、現代の日本社会で僅かに残された男社会の聖域の最右翼が労働組合なのだから、当然と言えば当然だ。
  女性がまだ一人前の働き手として認知されず、扶養されることに甘んじていた頃、労働組合は男たちの会員制クラブだった。女が自分の生き方は自分で決めるわよ、と主張しはじめた時、自分の座っていた場所を少し詰めて、女が座る椅子を用意してくれる男たちは、労働組合の中にいるだろうか。
  例えば、職場を禁煙にしてほしい、お茶くみは全員でやってほしい、冷房がききすぎて腰が冷える、おしりにさわらないで、といった要求を男は自分のこととして理解できるだろうか。組合の主要な要求として胸を張って交渉できるだろうか。これらはどれも、女にとっては安全で働きやすい職場の確保という極めて重要なことなのだが……。また賃上げで、世帯主の男は厚く、独身女性には薄くという配分を、男女同一に変えることができるだろうか。配偶者手当を上げるよりパートの時給を上げようと言えるのだろうか……。
  女が望むことと男が築きあげてきた職場や組合のルールは大きくかけ離れてしまった。女は、男たちの過労死につながる働き方や、育児や介護は妻まかせという生活のありようを変えてくれ、とせまっているのだ。これに気づいて、女と男の距離を縮めようとする努力が、日本の労働組合には一番欠けていると思う。
  札幌や神奈川には女性だけの労働組合ができた。組合の中に、女性のだけの独立したブロックをつくったところもある。組合の決定機関や役員にしめる女性の数が圧倒的に少ない以上、女性がエンパワーメントする(力をつける)ためには、既成の組合という枠にこだわってはいられないのだ。
  差別賃金やセクシャルハラスメントを取り上げない組合に見切りをつけて、裁判で闘うことを選んだ女性たちもいる。
  定年後の年金支給にまで引き継がれる賃金差別に対し、4500万円の損害賠償請求の裁判を起こした人がいる。「女性であるがゆえの差別による屈辱を、いのちを閉じる最期まで耐え忍ばねばならないのか」と彼女は訴える。それは私への差別だと、組織や地域や年代、国境をも越えて女たちの間に共感の輪が拡がっている。
  パート・派遣・一般職・総合職・主婦などと勝手に括られた枠を外して、女は自由につながり始めた。就職難に泣き寝入りしない女子学生の会、変えよう均等法ネットワーク、ILOパート条約批准を求めるパートナー175等々、次から次へと生まれるネットワークの中には、「正社員男性のみの会員制クラブ」を変えていく力と、新しい文化の芽がひそんでいるのだ。

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