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DATUMS 1996.02
外国人への優しさ―MITの場合

永友 清和  大阪大学理学部助教授

■ながとも きよかず
 1956年、宮崎県生まれ。84年3月大阪大学大学院理学研究科博士課程数学専攻単位修得退学、同4月大阪大学理学部助手。同講師をへて、93年から助教授。94年から約1年間、文部省長期在外研究員として米国マサチューセッツ工科大学(MIT)に滞在。おもな著書に数学/コンピュータ書『REDUCEによる線型代数』。

  私たち家族3人はマサチューセッツ工科大学(MIT)で研究生活を送るため、ボストンへと旅立った。夕闇迫るローガン空港で感じた不安は的中、しかし、それ故に知り得たことも多い。MIT以外の所では在米生活を全うし得なかった、私たちにそう思わせたあるボランティア団体がある。海外生活では子どもが貴重な体験をもたらすことも多いが、私たちがMITのwives group(ワイブズグループ)に出会ったのも重症のアレルギーをもつ息子の医療を通してである。
  MITメディカルサービスは診察予約の際の英会話能力と息子の状態の複雑さを配慮して、日本人女性に通訳を依頼した。彼女はwives groupで活発に活動している日本人の一人である。この団体はMITに滞在中していた外国人研究者の妻の自殺を憂慮したメディカルのカウンセラーの呼びかけではじまった互助組織であり、その活動領域の中で私たちが直接関わったのはベービーネット(相互にベビーシッターをする)、語学交流プログラム(二人がお互いの母国語を教える)、英会話教室(講師は主にMITの教授夫人)と私たちが個人的に助けられることになった医療受診時の通訳である。また、定期的な会合を開いており、その中でメンバー間の相互理解がはかられ活動方針がきめられる。ここで特徴的なのは、精神衛生の専門家が深く関わっているところで心理面への援助に対する深い関心が見られる。
  MITが公式に提供する外国人研究者・学生に対するサービスは主にInternational Officeで行われ、日常生活のガイダンスなどを定期的に行っている。スタッフは私の知る限り3人で、実務は情報の提供が原則であるところは日本の大学とかわりない。
  つまるところ個人の好意に頼ることになるが、好意の人との橋渡しをしてくれる組織が存在するか否かで状況は一変する。私たちの場合には wives groupが助けてくれた。不安一杯の初診時、受付けで通訳が来ることを知ったとき到着以来はじめて安堵感を感じた。これは私たちを助けてくれる人が確かにいることを知った喜びであった。wives group が医療上の通訳を派遣したのは私たちが初めてのケースである。MITに滞在する研究者はプライドの高い人が多く、通訳の申し出が喜んで受け入れられるとは限らない。どれだけの議論が wives groupで交わされたのか知る由もないが、私たちのケースは大成功であることが会合で報告され、医療受診時の通訳はその後活動の一つとして正式に発足した。
  私の勤務する大学にも長期滞在する外国人が急激に増えている。彼らへの対応は,最終的には、受け入れ責任者の努力に頼っているのが現状である。多くの外国人へ門戸を開きつつある今、善意の離散的な集合体ではなく、組織だったいわば人格をもつようなボランティア団体が多く生まれることを願ってやまない。

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