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DATUMS 1996.02
介護休業制度のメリットとデメリット

山本 啓  (財)総合教育研究所常務理事、中央大学法学部講師

■やまもと ひらく
 1947年山形県生まれ。78年中央大学大学院法学研究科博士課程(政治学専攻)修了。秋田大学教育学部助教授を経て、現在財団法人総合教育研究所常務理事、中央大学法学部講師。専攻・政治学、思想史、社会理論。著作:『ハーバマスの社会科学論』『現代思想入門?』『歩く速度の学問』など。


  わが国の高齢化率は、94年には14%をこえ、2025年には25.8%にまで上昇する。それにたいして、出生率は、現在の人口を維持できる2.05人を大幅に下まわり、全国平均では1.46人で少子化は進むいっぽうである。稼働年齢人口は90年代には横ばい状態を保てるが、21世紀に入ると減少に転じ、高齢人口の急増によって、2020年には従属人口指数は69.4にまでふくれあがる。
  こうしたハイパー高齢化にともなって在宅介護の比重が増大していくわけだが、それに対処するために設けられたのが、労働省が推進し、育児休業法の改正という形で法制化された「介護休業制度」である。大きな企業ではすでに実施されているところもあるが、95年10月から環境づくりのための準備期間として第1段階が施行され、最終的には99年4月から実施される。
  この制度の長所は、1)介護対象者が高齢者に限定されないこと(配偶者(内縁関係もふくむ)、父母、子供、配偶者の父母を対象)、2)対象が扶養家族や同居家族に限定されていないこと、3)介護を広義にとらえていること(入退院の手続、付き添い、精神的な支え、入院時の付添人の手配や退院後の介助者探し、在宅介護の受入れ態勢の整え)、4)休業中も給料の25%が雇用保険から支給されること(96年1月改正未確定)である。厚生省が推進している「公的介護保険制度」と違って、介護の対象が高齢者に限られない点がメリットだと言える。
  だが、1)介護期間が3か月に限定されていること、2)介護対象家族一人について連続して介護休業をとることができないこと、3)介護休業の取得を認めないという労使協定が結べること、4)解雇の制限が理念的なものにすぎないという欠点もある。育児休業ならば出産・育児のサイクルがほぼ1年間におさまるわけだが、介護休業の場合には、高齢者だろうと、重度の身障者だろうと、3か月間だけ介護を行えばいいというものではない。また、介護休業制度に応じて就業規則を改めるように義務づけながら、介護休業制度を適用しないという労使協定を結ぶことができるという例外を認めてしまっている。
  このことは、わが国が形ばかりは成熟社会の仲間入りをしたものの、育児休業や介護休業すら与える余裕がない企業や会社が圧倒的に多いという現実を反映している。また、労使関係は実働できる従業員の雇用の確保のための安全弁として機能すべきなのであり、家族やリタイアした高齢者を保護するものではないことを、はしなくも認めていることになってしまうわけである。
  介護休業制度は、厚生省の「新ゴールドプラン」や「公的介護保険制度」、それに「ボランティア休暇・休職制度」など、わが国の成熟度が問われるデファクト・スタンダードである。240 兆円をこえる赤字国債のように後の世代につけを先送りして済ますことがないよう、それぞれの事業者には、法制度をこえた対応を望みたいものである。

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