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DATUMS 1996.04
新しい豊かさへの提言

加藤 秀樹  大蔵省財政金融研究所研究部長

■かとう ひでき
 1950年香川県生まれ。京都大学経済学部卒業。大蔵省入省後、英国留学、在エジプト日本大使館及び在英国日本大使館勤務をはさみ、大蔵省証券局、主税局、国税庁、国際金融局などの職務を歴任。1993年から現職。


  昭和33年に開始された総理府の「国民生活に関する世論調査」によると、国民の現在の生活に対する満足度は平成7年の値が最高を示している。バブルの真盛りにはむしろ低下しているのが面白い。豊かさとか、生活に満足するとは何のなのかあらためて考えさせられる。
  「持続可能な発展」を基本理念として、国や地方自治体に政策提言を行っているISS(Initiative for Sustainable Society)研究会というNPOがある。私もこれに参加しているのだが、このグループが高知県の委託を受けて高知県の自然の価値を経済的に評価するとともに、それを生かした地域振興策を「新しい豊かさへの提言」としてまとめた。
  今やGNPが大きくなればそれにつれて豊かだと感じる時代ではなくなっている。むしろ自然や、その中で育まれてきた伝統こそが私たちに豊かさを感じさせてくれるのであり、県づくり、国づくりを行ううえで重要な視点であると報告書は言う。一方で自然や伝統の価値をどう見るかは人によって異なり、今までGNPのように数量化することができなかった。豊かな自然を守るには住民をはじめとする関係者の多大な努力と資金を必要とする。したがって風土や自然環境がもつ価値ができるだけ客観的に、できれば数量的に示されれば行政上大変参考になる。自然の保全や後継者の養成にどの程度の費用を負担するかなどが客観的に説明できれば県民、ひいては国民から納得を得やすくなる。
  そこで、このプロジェクトでは「最後の清流」として知名度の高い四万十川とその流域を例にとって、その風土、自然環境の価値を、CVM(仮想的市場評価法)という方法を用いて貨幣額で評価することを試みた。結論だけ示すと、わが国の平均的な都市住民は、四万十川の清流を維持するために世帯当たり約14,600円の負担をする用意があること、これをもとに全国ベースでの四万十川の自然に対する価値評価総額を推計すると最大6,150億円、最小1,400億円となることが明らかになった。報告書ではこの調査結果をもとに、「四万十川トラスト」や一種の環境税である「清流保存税」を国に呼びかけるなど様々な政策提言を行っている。ここで重要なことは、数値の大小はともかくとして、従来、価値観の問題とされていたことが数値で示されることによって、誰にでも分かりやすいものになったことである。すでにアメリカではこの手法が行政上使われていると言う。わが国でもこのような手法を活用することによって、行政や政治も、GNP一辺倒を卒業すべき時期だろう。国民の意識はその先に進んでいることをこの高知県のプロジェクトは示している。

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