[BACK]
DATUMS 1996.06
「不安無限連鎖」商法

西川 正  フリージャーナリスト

■にしかわ ただし
 1967年生まれ。大学卒業後、学童保育所、出版社等勤務を経て現在障害者団体のスタッフのかたわら、「小さい所、低い所」からの視点で社会を斬る姿勢をもちつつ執筆活動を展開中。中学校家庭科教員免許をもちジェンダーにもこだわりつづけている。


  「確かにあなたは外から見るといい妻、やさしい母、できた嫁よ。でも、それで幸せなの?たぶんあなたの人生はそれだけではないでしょう? それであなたは自分のやりたいことができているの? もっと別の世界があるのよ。刺激的で、なんていうか本当に生きているっていうことを実感できる世界が。そう、私も昔そうだった。つらかった。ふと私の人生っていったいなんだろう? と思うことがよくあったわ。でも今は違う。アムウェイと出会ってから私の人生は変わったの。どう? こんど一緒に説明を聞いてみない?」。こうして友だちから友だちへと広がっていくのがアムウェイ商法の強さだ。誘われた集会に出てみると、「成功」した友だちが舞台の上でスポットライトを浴びて堂々と自分の「成功談」を語っている。「あなたは誤解してるみたいだけど、私たちは洗剤を売っているんじゃないの。とてもいいものだから一緒に使いましょうよ、と友だちに紹介するだけなのよ。それだけでいいの。お金も入って、あなたの人生が変わるのよ。誰にも迷惑をかけるわけではないのよ、やってみない? アムウェイは全ての人に成功のチャンスを提供しているのよ」で、めでたく入会。「突然の変身」に周囲は驚き、あわて、壊された平穏な日常を回復すべく、なんとかやめさせようとあの手この手で責めたてる。しかし、その「自分を責める人々」の言うことを今まで聞いてきた結果が、今の私のこのつまらない生活だ、と感じていたら……聞く耳をもってはいけない、聞いてしまったらまたもとの自分になってしまう、とますます懸命に心を閉ざそうとする。なにしろ閉塞した自分の人生を開いてくれる唯一のものとしてアムウェイを信じるしかないと決意したのだから……。
  あなたならこの「平凡なおばさんの変身」にどう対処しますか? アムウェイの「成功(儲かる)」しくみは簡単。一部の成功者のために、多くの「成功できないけどまじめに成功を信じて努力する会員」の存在が絶対不可欠な、つまりは(現行商法では違法ではないだけで)限りなくマルチ商法に近いものなのだ。しかし、こんなアムウェイのレトリックをどんなに説明しても、おそらく相手は心を開くことはないだろう。私の姉が一時かたくなにそうありつづけたように。
  「あなたは本当にやりたいことがやれていますか? 本当に自分の人生を生きていますか?」という問いに確信を持って「はい」と答えられる人などたぶんいない。しかし、「はい、と答えられないのはひょっとすると私だけではないだろうか」と不安に思う人たちがいる。この人たちが彼らの客である。「私たちは洗剤を売る会社ではない」と彼らは言う。その通りなのだ。彼らはこの「不安の連鎖」を流通経路とし「(何もないほんとにつまらない)あなたにも変身するチャンスがある」という幻想を売っているのだから。この「不安の無限連鎖」を断ち切らない限りコンプレックス・ビジネスはたえず形を変え、品を変え成長を続けるだろう。

[BACK]