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DATUMS 1996.06
サラリーマンはなぜギャンブルがお好き?

佐藤 彰  日刊現代記者

■さとう あきら


  ちょっと前なら、オグリキャップ、今ならナリタブライアンと聞いて競走馬だとピンとくる人は結構多いはずだし、チューリップ、黄門ちゃまとくればパチンコ台のことだとわかる人も少なくないだろう。競馬にパチンコ、いずれもギャンブルであり、ひと昔前なら、世間から煙たがられる存在だった。ところが、競馬は3兆円。パチンコは30兆円産業、なんと国家予算の半分に近い額にまで急成長している。ギャンブル産業はさらに、競輪、競艇、オートレースと枠を広げて、このところ麻雀までが若い人の間で大流行だというのだから、1億2000万人、“総ギャンブラー”に大変身してしまっているわけだ。いったい、どうしてこんな現象が起こってしまったのかしらん。
  春のG1戦線がいよいよ佳境に入り、この「デイタムズ」を読んでいる時期はダービーのころか。そもそも人々はギャンブルをなぜ始めたのか。「友だちや同僚に誘われたから」「話を聞いていて面白そうだったから」「テレビやラジオで知って」「何となく」といった具合で“成り行き”がふつうのようだ。
  実際やってみても、番号を選ぶとか玉を弾くといった程度のことだから、だれでもできるし、初心者だって結構儲けることがでる。
  この前の桜花賞でも「誕生日の番号で買ったらあたっちゃった!」と万馬券を握ってパチンコ店のテレビの前でハシャぐ、お水系のケバいお姉さんがいて、周りの“玄人筋”の顰蹙を買っていた。が、こんな手軽さと、やっているときのスリル、当たったときの充実感、そしてゲンナマがその場で手に入る快感がたまらないわけである。
  と、ここまではギャンブルの魅力であり、何も今に始まったことではない。バブルが弾けた後、かえって空前のギャンブル人気を迎えているワケが知りたいものである。手がかりは現場にあり。これは小生の商売である新聞記者の習性でもあるから、開催中の東京競馬場に出掛けてみることにした。この日は短距離走で一番速い4歳馬を決めるNHKマイルカップ、1着賞金9200万円というG1レースで賑わっていた。例によって馬券が当たった者、ハズレた者の悲喜こもごもがあり、夕方1日のレースが終わる。府中競馬場駅につづくオケラ街道を肩を落として歩く人達の姿も見慣れた光景だ。
  小生は、沿道にある焼き鳥屋で一杯飲むことにした。これもいつもの習いだ。「あーあ、G1、4連敗だぜ!」と、隣から悔しがる声が聞こえてきた。G1の第一段、桜花賞から皐月賞、天皇賞、そして本日もハズしたわけだ。「ケッ、オレなんか毎週スカ。4月から14連敗だよ」と相手方がオレの方がヒドイと威張ってみせるが、そんなことを自慢し合ったところでしょうがない。もっとも、本当に後悔しているわけでなく、酒宴開始のあいさつ代わりのようなものではある。
  「ナリタブライアンがこけてよー、単勝3万がパー、来週急に使うんだって、どうしたもんかね」連休前の天皇賞の話である。話題がいきなり飛ぶのが呑んべえらしい。「ブライアンを買うか買わないかはオマエの勝手。オレは消しだね」と、相手方はそっけない。その言葉でヘソを曲げたのか、話を振った方は「つれない奴、ブライアンと心中だ!」と宣言。まっ、それもいいでしょうと人の話をサカナに呑んでいた小生もつぶやいた。このときキラリと、閃くものがあった。あれは、3年ほど前か、やはり東京競馬場にゲージツ家のクマさんが来ていたことがあって、競馬には素人の彼が、馬券を買う人達の様子をみて、喋ったある話を思い出したのだ。
  「競馬場っつうところは、ワイワイガヤガヤ勝ち馬を予想している者がいるかと思えば、一人で哲学でもするみてえに黙りこくって考えている者もいる。いざ、馬券を買うときも、窓口の前でまだ迷っている者もいれば、自信あり気におばちゃんに馬の名前を言うのもいる。どういうスタイルでもいいんだね。あれダメ、それダメ、これを買えなんて強要するやつはいない。いても、カネを払うのは本人だから、無視して構わない。結局、それぞれが買いたい馬券を買うんだな。皆、そんな自由な空気が好きで集まってくるのかもしれないね」ン?、たしかに、自分の意志をそのまま表に出せる場所はそんなに多くないから、そうかもしれない。バブル後はとくにそう。
  会社では、言いたいこといったらそれこそリストラされかねないし、社員の数が減った分仕事は増えて家での四面楚歌もますますひどくなっているお父さんが少なくないはずだ。いや、ギャンブルをする女性人口が急増していることを考えると、女性も同じなのだろう。突然のクビ切りに文句も言えずやめていくパートの主婦は多いし、総合職で入ったエリート女性の社内での地位は相変わらず低くて自己主張なんてとんでもない。ギャンブルは、そんな屈折した社会の中で唯一のオアシスなのかもしれない。だからこそ、給料が減っても、住宅ローンや教育費に苦しみながらも、ギャンブルに関心が向いてしまうのだろう。
  ただ、ギャンブルはあくまで賭事。火傷しないようにほどほどに……余計なお世話かな。

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