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DATUMS 1996.08
社会経済システムのなかでのNPO

中村 陽一  都留文科大学助教授

■なかむら よういち
 1957年金沢市生まれ。一橋大学社会学部卒業。新評論編集部、日本生協連総合指導本部出版部を経て、非営利独立のネットワーク型シンクタンク・消費社会研究センター代表に。96年4月から現職の都留文科大学助教授(地域社会論・市民活動論)。著書に『都市と都市化の社会学』(共著)など多数。


  もう4年前になるが、米国政府のインターナショナル・ビジター・プログラムで、米国の草の根NPOとそれを支援する企業・財団など約30か所を3週間かけて回ったときのこと――。
  ワシントンD.C.の書店で1冊の情報誌が売られていた。それは、公共に関わる仕事についてのいわば就職情報誌で、そこにはNPOのスタッフ募集も大々的に載っているではないか。頭では理解していたつもりでも、あらためて米国でのNPOの位置を見た思いがしたものだった。ちなみに、この調査旅行で私たち一行は、行く先々で、連邦政府あるいは企業からNPOに移ってきたスタッフや、地元の有力銀行を休職してNPOの経理を担当しているスタッフ(念のため付け加えておけば復職も織り込み済で、「窓際」というわけではない)などに出会うことになる。
  日本ではどうか。残念だがまだ、政府・行政や企業と市民(公益)活動との間での人材の流動性は低いし、そうした活動の場で有給スタッフとして働ける機会も決して豊富にあるとはいえない。何より、そこでともあれ食えるということ自体が今後の課題でもある。
  しかし、事は確実に起こり始めているといってよい。この10年余り、私は、協同組合運動・社会運動・市民運動・ボランタリーな市民活動の現場と、行政・企業、そして大学・研究機関等の間を往復しつつ、調査・研究・提言を進めてきたが、私が「生活の場からの『地殻変動』」と呼んできた胎動に発して、さまざまな事業化・専門化の形を含め、特に環境・福祉といった分野から地域づくり・まちづくりに取り組んでいこうとする試みが各地で始まっている。
  全体としてまだまだ形成途上とはいえ、それらは、地域の社会経済システムを、極力、協働型の方向で多元化していこうとする点で共通している(ワーカーズ・コレクティブ、専門生協、まちづくり型福祉活動、有機農産物等の産直・宅配・市民起業への融資、リサイクル事業、コミュニティ・ユニオン、グローバルな交流・支援の事業活動など)。
  社会経済システムの多元化を鍵とする地域社会のネットワーク化は、公的セクター(政府・行政)と民間営利セクター(私企業)とで社会を運営してきたシステムから、いま仮に「市民セクター」と呼ぶことのできるような多様な社会的・経済的主体のネットワークをも運営主体として含み込んだシステムへの組み替えのビジョンを準備しつつある。
  そこにおいて社会経済的な側面で一般に期待され始めているのは、一つには雇用創出あるいは吸収効果、もう一つは社会的イノベーションにつながりうるような新機軸の事業のインキュベーターとしての機能である(たとえば、つい先ごろ発表されたNIRA研究報告書『市民公益活動の促進に関する法と制度のあり方』でもその種の指摘がなされている)。そのために、NPOをめぐる法制度上の整備、複合的ネットワーク、情報協同組織、市民的専門性をもったスタッフ、ネットワーク型マネジメントとリーダーシップ、サポートセンター、コミュニティ財団、自立した非営利シンクタンクなどが基盤整備のための課題となるのはいうまでもない。

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