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DATUMS 1997.11
企業独占に立ち向かうバーチャル市民運動

岡部 一明  フリーライター

■おかべ かずあき
 1950年栃木県生まれ。79年カリフォルニア大学自然資源保全科卒業後、日米の市民団体勤務を経て、現在フリーライター。サンフランシスコ在住。著書に『インターネット市民革命』(御茶の水書房)、『パソコン市民ネットワーク』(技術と人間社)、『社会が育てる市民運動――アメリカのNPO制度』(社会新報ブックレット)、『多民族社会の到来』(御茶の水書房)、『日系アメリカ人:強制収容から戦後補償へ』(岩波ブックレット)。共著に『災害ボランティアとNPO――アメリカ最前線』(柏木宏監修、マスコミ情報センター発行、朝日新聞社発売)その他。


  「ビル・ゲイツは現代のどろぼう成金」マイクロソフト社の独占を批判するキャンペーンをはじめた「ネットアクション」のオードリー・クラウスさんが言う。「マイクロソフトにソフトになるな。消費者は声を上げよう。」
  1900年代前後の独占資本形成期、不正な取り引きで蓄財した資本家たちをアメリカではロバーバロン(どろぼう成金)と言う。パソコンと情報ハイウェイの時代に、その新興独占の役割を果たすのが米コンピュータ・ソフト会社のマイクロソフト社(会長ビル・ゲイツ氏)だとクラウスさんは言う。ネットアクションはクラウスさんが昨年一人で設立したインターネット上の「バーチャル市民団体」。各種コンサルティングで市民運動のインターネット利用を支援し、隔週刊の電子ニュースレター『ネットアクション・ニュース』で通信関係重要ニュースを世界に流す。
  「これまでインターネット関係の消費者運動はあまりなかった。だが、ネットサービスの質、独占の問題、アクセス料金、技術や通信インフラ選択の問題など、この分野で重要な課題が山積している。」サンフランシスコで実物のクラウスさんに会った。バーチャル団体の拠点は彼女のアパート。人が来ると近くの喫茶店で会う。彼女が最近まで事務局長をしていた電話会社監視の市民団体TURN(公益事業改革ネット)事務所にも近い。「今がサイバー消費者にとって絶好の機会 」とクラウスさん。
  この4月、マイクロソフトがWeb TV(テレビをインターネット端末にする技術をもった会社)との合併を発表し、司法省が独禁法がらみで両社に情報提供を求めた。この時をとらえ、クラウスさんは反マイクロソフト・キャンペーンを開始した。マイクロソフト社はMS-DOSからウィンドウズまで主要OS(基本ソフト)を出し、パソコンソフトで独占的地位を占める。さらに、今後の情報ハイウェイの時代に、ネットワークからメディアまで、あらゆる分野の主導権を握るのではないかとも恐れられている。
  この 9月15日、クラウスさんたちはワシントンDCで議員たちへの一斉ロビーイング活動を行なった。上院反トラスト小委員会が今年末の公聴会でマイクロソフト問題を扱うと確約した。態度のあいまいな下院司法委員会には、電子メールで要望書を出すキャンペーンをはじめている。マクロソフト・エクスプローラの新バージョン発売を間近に控え、ブラウザー市場での攻撃的マーケッティングへの注意も呼びかける。
  巨大企業に一人で立ち向かう活動を何が可能にしたのか。「インターネットなしにはこのような活動は考えられない。大勢に情報を送ることさえ郵便では難しい。世界ネットが一人ではじめる活動にも手段を提供する」とクラウスさん。だが、それだけではない。アメリカの非営利団体(NPO)支援装置も様々に役割を果たしている。法人化されていないネットアクションは、タイド・センターというレッキとした非営利団体(NPO)の1 プロジェクトであり、いわばこの団体に「NPO法人のひさしを借り」、税制優遇、助成その他NPO特典を受けている。
  「タイド・センターにこれこれの活動をはじめたいと提案し、彼らがこれを評価すれば、その一部になって財政その他あらゆる運営上の支援が受けられる。タイド・センターがなかったら私はたくさんの書類仕事をしなければならず、人を雇わなければやれなかっただろう。」
 ビジネス界でも、共同事務所などを貸出しマネジメント支援を行なう「インキュベーター」が増えている。タイド・センター(本部サンフランシスコ)はそのNPO版だ。活動が生まれ独立(独自法人化)するまでの面倒をみる。同じくサンフランシスコにあるタイド財団(革新的団体にしか助成しない「社会変革財団」の一つ)によって設立され、現在、約 250団体が内部プロジェクトとして育まれている。
  こうした支援に支えられながら、アメリカでは今、インターネットによる「バーチャル市民運動」が急速に力をつけている。今年前半、巨大文具スーパーチェーン、ステイプルズとオッフィスディーポの合併に対してネーダーグループがネット上で活発な批判キャンペーンを行ない、7月までにこれを中止に追い込んだ。独禁法規制機関である連邦通商委員会(FTC)に、合併関係の情報公開と電子メールによる市民からの意見受付けも認めさせている(『社会新報』97年10月8日、参照)。ネーダーらはこの11月13--14日にワシントンで「マイクロソフトとその世界戦略の鑑定」会議を開き、ビル・ゲイツ会長とゴア副大統領の参加も呼びかけている。クラウスさんもここにパネリストとして参加し、合併と企業集中の時代における情報市民運動の役割を訴える。

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