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DATUMS 1997.12
労働組合は地域・市民と出会えるか

石川 両一  龍谷大学経済学部教授

■いしかわ りょういち
 1949年生まれ。大阪市立大学経済学部大学院終了。自主福祉運動を軸とした労働組合とNPOの連携の具体的ありかたを研究テーマとしている。共著に『グローバル時代の労働と生活』『新・都市自治論』。他に「自主福祉運動と労働金庫の課題(連載中)」など。


  日本的雇用システムの変容や高齢・少子社会の到来などの時代の変化に有効に対応しえていない既存の労働組合に内外から厳しい批判が浴びせられている。
  労働組合の「頼りなさ」を反映して、労働基準監督署に対する申告件数や都道府県の労政事務所への相談件数は記録的数字を刻んでいる。800万人「連合」よりも、地域コミュニティユニオンや管理職ユニオンなどの「アウトサイダー」の活動が注目されている。既存の組合内部でも「今の連合は未組織労働者を含めた幅広い勤労国民の要求や期待に応える魅力を失っているのではないか」(「連合」大会での代議員発言)、「労働組合は既得権擁護に固執し、改革に取り組まない保守勢力」(自治労組合員調査)との鋭い指摘が相次いでいる。
  労働組合は勤労者の生涯にわたる安心とゆとりの暮らしを実現するための道具(装置)である。役立つ道具であり続けるためには、絶えず道具は磨かれ、時代の変化に対応して作り替えられなければならない。
  いま「連合」は、「道具の作り替え」に向けて、その重い腰を上げようとしているかにみえる。「連合」の新運動方針は、雇用形態の多様化・流動化に対応して個人加盟方式の地域ユニオンやクラフトユニオンの組織化を打ち出し、組織化のノウハウの共有化を目指した「組織化アドバイザー制度」(仮称)の検討にも言及している。さらに、総合組織局の下に市民・ボランティア局を創設し、ボランティア活動の推進を掲げた。
  新運動方針を待つまでもなく、すでに部分的であれ各単産や各地方で新しい試みが始まりつつある。10年以上前から、日本音楽家ユニオン、観光労連、電算労などは労働者供給事業を開始し、自ら雇用の創出と派遣労働者の労働条件の改善に取り組み、一定の成果をあげている。しかし、それは例外的取り組みにすぎない。地域で働き、地域で暮らす中小企業、パート、派遣など労働者の組織化は極めて不効率で手間隙がかかる分野である。本腰を入れて組織化の鍬を入れようとするならば、現在、大部分が企業別組合で消費されている「カネ、ヒト」の組合資源を、連合や単産の地域組織に投入することが不可欠である。その実現に向けて連合・単産のリーダーシップが問われるところである。
  労働団体のボランティア活動も、従来の「動員型」から組合員の自発的活動への支援へとシフトしつつある。島根労福協の「さわやか生涯福祉センター」、滋賀労福協の「福祉サービス市民ネットワーク」、連合福岡の「ボランティア移送サービス」、福井労金退職者友の会の「助け合いネットワーク」、愛知労福協の「ハートフルセンター」、連合東京の「ボランティア・サポート隊」などがそれである。
  既に、労働組合に先行して、地域社会での暮らしの問題を自分たちの協同の力で自主的に解決しようとする女性たちを中心とする市民事業・活動(NPO)が全国各地で産声をあげ、ネットワーク化も進みつつある。(財)さわやか福祉財団の調査によれば、市民互助型の在宅福祉サービス団体は1000団体を数えるまでになったという。全米退職者協会の日本版をめざすWACも全国各地に支部が創られつつある。市民生協も生活クラブ生協やグリーンコープ、コープこうべなどが本格的な福祉事業を開始し、かつ組合員によるワーカーズコレクティブの設立を支援している。
  着手されたばかりの労働団体の地域環境や福祉問題の取り組みが定着し、拡がりを獲得するためには、これら先行部隊(主に女性)との連携が不可欠である。労働組合ほど女性の活用に失敗してきた組織はない。それゆえに、日本の大衆運動は、労働組合(男性)と生協・市民事業(女性)に分裂してきた。生協・市民事業も男性の参画を強く求めている。しかし、男性が不用意に持ち込む「会社的発想」「組合的運営手法」に対するアレルギーも劣らず強い。会社や組合での肩書や発想を引きずることなく、一市民として活動に参画できるかが、組合としても一個人としても問われている。
  労働組合が地域と市民に出会うためのハードルは決して低くないが、それをクリアせずして労働組合の明日はないのである。

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