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DATUMS 1997.01
映画「大地と自由」から学ぶこと

原田 健秀  岩波ホール宣伝担当・絵本作家

■はらだ たけひで
 1954年東京生まれ。都立高校卒業後一時信州に住み、後に神田の美学校を卒業。75年岩波ホールに入社。89年、絵本第一作『パシュラル先生』が産経児童出版文化賞入賞。その後『フランチェスコ』『たびのなかま』を発表。94年『フランチェスコ』がユニセフ=エズラ・ジャック・キーツ賞日本代表作品に選ばれ、日本人で初めて受賞。児童合唱組曲として初演。


  岩波ホールでは、現在、イギリス映画「大地と自由」を上映しています。昨年、フランスのカンヌ映画祭でこの作品が初めて上映された際、客席の私の周囲では感動のあまりにすすり泣く声も聞こえ、終映後には、観客は皆立ち上がってスクリーンに拍手を送り、会場は異様な興奮に包まれました。
  「大地と自由」は、60年前のスペイン内戦をテーマにしています。監督のケン・ローチは、労働者階級の日常を背景とした作品で国際的評価の高い人です。クーデターを起こしたフランコ将軍率いる反乱軍と戦うために、世界中の人々がスペインの大地に集まりました。内戦は反乱軍の勝利に終わったわけですが、この作品は、内戦におけるファシズムと反ファシズムの対立だけではなく、反ファシズム側の敗北の理由のひとつである、内部のスターリン主義者と反スターリン主義者の対立を描いています
  また、この作品では、現代の若いイギリス人女性が、祖父の死を機に、祖父がかつて参加したスペイン内戦を知っていくという構成になっています。こうしたことにより、ローチ監督は、戦いに参加した人々の死を、私たちの未来につなげるものとして意味づけようとしました。ラストシーン、祖父の埋葬の場で、女性は棺に遺品である赤い布に包まれたスペインの土をかけ、19世紀の社会主義者ウィリアム・モリスの詩を朗読します。「誰も敗者とならぬ戦いに参加しよう。たとえ死が訪れても、その行いは永遠なり」と。
  「大地と自由」は、スペイン内戦と同じように、見る立場によって解釈は異なると思います。しかしプロパガンダの映画ではありませんし、イデオロギーを語る映画でもないと私は思います。人間の歴史を語る映画です。スペイン内戦で、自由、平等、正義の理想を信じ、戦って、敗者となりながらも、人生を信念でまっとうした人々の物語です。しかし、それはけっして敗者の人生ではなく、空しいものでもありません。
  映画の中では、多くの議論も描かれています。現代には、多くの危機――冷戦構造崩壊後の紛争、貧富の差の拡大、地球汚染、政治への不信などがあり、私たちは、未来への不安を抱えています。このような状況の中で、私たちは社会運動や議論等への参加にある諦めのようなものを感じてはないでしょうか。終映後のロビーで若いお客さまにまじってたたずむ、人生の苦汁を知るかつての闘士であろう老人のまなざしに、私は感銘を受けずにはいられません。
  私はこの作品をとおして、人間の歴史とは闘う人生の繰り返しであり、たとえ敗者となっても、このことが人間の希望を生んできたのではないかと思うようになりました。皆さまにも、この作品からなにかを感じていただけたらと願っております。映画「大地と自由」は、神保町の岩波ホール(03-3262-5252)で2月下旬まで上映中。

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