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DATUMS 1997.03
市民団体との契約、在米日本企業にも波及

柏木 宏  日本太平洋資料ネットワーク(JPRN)理事長

■かしわぎ ひろし
 東京都出身。同志社大学文学部社会学科卒業後、渡米。ラトガース大学大学院労働研究科修了。移民、社会福祉、医療、法律援助などに関するNPOの役員やスタッフをへて、1985年に日本太平洋資料ネットワーク(JPRN)を設立。現在、同ネットワーク理事長。著書に『アメリカの外国人労働者』(明石書店)、『企業経営と人権』(解放出版社)、『アメリカのなかの日本企業』(日本評論社)、『災害ボランティアとNPO』(朝日新聞社)、『ボランティアを考える』(岩波書店)など多数。


◆企業ビヘイビアの改善を求める契約
  昨年11月、アメリカの企業社会を驚愕させるニュースが伝えられた。人種差別問題に関連して、大手石油会社のテキサコが市民団体との間で総額1億7600万ドル余りにのぼる和解案を発表した、というのがそれである。邦貨に換算すれば、 200億円を超える和解の内容には、1400人の黒人従業員(元従業員を含む)への補償や賃上げの他、黒人従業員の採用や昇進を促進させるための特別委員会の設立などが盛り込まれている。
  テキサコのケースのように、市民団体が企業ビヘイビアの改善を求めて社会的な契約を取り決めることは、アメリカでは珍しいことではない。労働組合や市民団体の連合体のFIGHTは、1966年から67年にかけて、ニューヨーク州ロチェスター市に本社があるコダックに対し、マイノリティ 600人の採用を求めた。会社側は当初、この要求を受け入れるとしたが、その後、撤回。FIGHTは、同社の株主総会に向けて要求を支持する株主を動員するという形で、経営陣に圧力をかけた。結局、コダックは、自主的にマイノリティ採用を行う計画を発表した。
  1970年代には、キャンペーンGMが展開された。世界最大の自動車メーカーGMに対して、PCSという市民団体は、GMの株主総会で動議を提出した。女性、黒人、消費者、環境団体などこれまで無視されてきた人々の利益を代表する人々を役員会に迎え入れるために役員数を増やすこと、PCS、全米自動車労組、会社の役員の三者からなる企業の社会的責任に関する委員会を設けること、の二点を求めたものだ。株主総会から2ヶ月後GMは、委員会を設置、さらに黒人の役員も誕生した。

◆在米日本企業と市民団体の契約
  1980年代に入ると、在米日本企業も市民団体のターゲットにされるようになってきた。1988年に東京銀行のカルフォルニア現地法人の加州第一銀行がユニオン銀行を合併しようとした時、グリーンライニング連合は、銀行側と交渉を行い、1.1989年から90年の間に総額8400万ドルの低所得者向けの住宅ローンや小規模事業体向けの特別融資プログラムを実施する、2.今後、5年間に少数民族や女性が経営する企業からの購入を銀行全体の20%に増大させる――などの点で合意した。
  最近では、イリノイ州の米国三菱自動車製造のケースがある。昨年4月に連邦政府がセクハラで訴えたことで一躍脚光をあびた問題に関連している。虹の連合などの公民権団体は、同社のセクシュアル・ハラスメント対策の強化だけでなく、女性やマイノリティの登用やマイノリティ・ビジネスとの取引の拡大などを求めた。今年1月、マイノリティや女性が経営するディーラーの割合を増やすなどの点で三菱側との合意が成立した。
  市民団体と企業の契約には、企業側の自主的な措置に市民団体側が了承するということも含まれる。しかし、仮に自主的な措置であったとして、企業側は、リップサービスとして扱うことはできない。市民団体が厳しく目を光らせているからだ。
  カリフォルアの住友銀行は4年前、低所得者向けの住宅ローンやマイノリティ企業との取引を増やすプログラムを発表、グリーンライニング連合もこれを歓迎した。しかし、いま、同連合は、住友側が十分な対応を行っていないとして批判、政府機関に訴えた。企業の自主的な措置を含めた社会的な契約を通じて、企業ビヘイビアを変えようとする市民団体のプラクティカルなアプローチに、在米日本企業も巻き込まれている。日本の市民団体も、企業ビヘイビア改善のために、こうした方式を参考にすべきではないだろうか。

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