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DATUMS 1997.03
消費者にとっての「契約」

安田 憲司  国民生活センター

■やすだ けんじ
 1947年東京生まれ。東京都立大学卒業後、国民生活センターに勤務。消費者のための情報の編集・管理、消費者の意識や行動に関する調査研究に携わる。高度情報化や規制緩和といった経済社会の変化の中で、消費者としての当事者意識や自己責任など、消費者が果たすべき役割が強調されている。最近は、生涯学習社会に向け、社会人に対する消費者教育のあり方をテーマに調査研究を行っている。


●消費者トラブルと契約
  消費者が日常的にする買物も契約であるが、契約とはあまり意識されにくいのかも知れない。しかし一旦それがトラブルになると、契約という観点が重要になってくる。このようなトラブルの相談を受け付ける消費生活センターが、全国各地に 320カ所以上開設されており、年間30万件近い苦情相談が消費者から寄せられている。
  消費者がトラブルに遭ったときの行動は、まず契約の相手である販売店やメーカーに苦情を申し出るというのが一般的である。ほとんどはこの段階で、何らかの形でトラブルは解決されている。そのため消費生活センターに持ち込まれる苦情は、相手が交渉に応じなかったり、販売方法が悪質だったり、金額が多額だったり、相手が倒産してしまったりなど、より複雑で深刻なトラブルがめだつ。

●契約がらみが多い消費者トラブル
  消費生活センターが把握している消費者トラブルはいわば氷山の一角だが、消費者が不満を抱く商品やサービスの種類、販売方法、契約内容などの傾向を知ることはできる。苦情相談の分野では、かつて6割以上を占めた商品に関する苦情の割合が徐々に低下する一方、サービスに関する苦情の割合が高まり、両者がほぼ拮抗するようになった(1995年度は前者が53.0%、後者が45.9%)。
  また、消費者の文化・レジャー志向を反映して、教養・娯楽に関する商品・サービスの苦情の占める割合が高い。さらに、トラブルの内容では、期待したような商品やサービスが提供されなかったとか、知らぬ間に契約したことにされたとか、内容に不安があるので解約したいなど、契約に絡んだ苦情の割合が高くなっている(複数カウントで95年度は64.8%)。

●何度も狙われる消費者
  この数年、同一人の消費者を標的にし、強引に次々と商品・サービスの契約をさせるという悪質商法が目立っている。行政書士や中小企業診断士などの公的あるいは私的資格が取得できると誘って消費者を契約に持ち込む“資格講座”のケースがもっとも多く、しつこい勧誘に困った消費者に対して、勧誘が来ないようにしてあげるなどと言って新たな契約をさせる悪質な例もある。背景には、業者の顧客リストが他業者に流用されているのではないかとの指摘もある。
  被害者は男性のケースが3分の2近く、年代は20歳代が約半数、職業ではサラリーマンが7割以上である。年代的な特徴などから、契約に対する判断力や交渉力の未熟さを狙っているとも考えられる。このような“多重被害”では、消費者の支払能力をはるかに超えるクレジット契約を次々に許してしまう、クレジット会社の過剰与信という問題が従来から指摘されている。

●大切な小さい頃からの契約教育
  契約は当事者を拘束するものである。その点で事業者と消費者は本来対等のはずだが、実際には情報力、組織力、交渉力、資金力などでは大きな差がある。そのため消費者の契約に対しては、契約時点での十分な情報提供や消費者の意思確認など、消費者保護の責任を事業者に課している場合がある。訪問販売における書面交付やクーリングオフなどが典型的な例だが、それでも悪質な業者や消費者の不注意によるトラブルは跡を絶たない。
  近年の規制緩和の流れは、事業者の活動を規制する法律などを最小限度にしていこうという考え方である。これまでの事業者の規制の中には、結果的に消費者保護の機能を果たしてきたものも多い。浜の真砂のごとき悪質業者はともかく、これからは消費者の側にも契約に対する明確な当事者意識が求められる。数年前から学習指導要領の改訂にともない、学校教育の中に消費者教育が本格的に導入されることになったが、消費者の契約意識の向上は、学校における消費者教育の重要な部分になろう。

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