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DATUMS 1997.06
長期休暇の実態と活用―社会全体のゆとりを考える

松澤 淳子  (財)余暇開発センター・政策研究部副主任研究員

■まつざわ じゅんこ
 1962年東京生まれ。86年早稲田大学第一文学部哲学科社会学専修卒業後、(財)余暇開発センタ?入社し、現在に至る。自由時間政策をはじめ、文化振興、生涯スポ?ツにかかわる領域を調査研究中。著書『レジャ?産業の経営動向』(同友館)共著。


  日本人の連続休暇の取得は、年間を通してみると、年末・年始、ゴールデンウィーク、夏休みの三つの山があります。業種や企業規模などによる違いはありますが、長さはそれぞれ 1 週間といったところが実態です。
  日本は批准していませんが、国際的な労働基準であるILO第 132号条約では、有給休暇のうち2週間は連続して休むことを1970年に定めています。2週間以上の連続休暇は、肉体的、精神的な健康を取り戻すためにぜひとも必要であり、それは結局社会的なコストを引き下げるのだという認識がこの条約締結の背景にありました。最低2週間という休暇の長さは、心身の健康面からみても社会全体からみても、意味のある長さだといえそうです。
  そこで、余暇開発センターでは、「2週間以上の連続休暇が日本人に普及することに賛成ですか、また、取得してみたいと思いますか」という質問を全国20歳以上2000人を対象にしてみました。その結果、7割が賛成し、3人に2人が取得意向を持っていることがわかりました。多くの日本人は長期休暇を取りたいという意向を持っている、つまり、長期休暇に対するニーズは既に日本人の間で十分にあることは明らかです。
  それでは、ニーズはあるのになぜ長期休暇が取れないのか、その理由を聞いてみました。全体では「休んだあと仕事や家事がたまるから」が最も多くなっています。その他も仕事や職場に係わる理由が多いところをみると、職場環境の改善がまず必要でしょう。しかし、属性別で細かくみると、未就学の子供や高齢者がいる世帯では「世話をする必要のある家族がいる」という理由や、職種によっては「収入が減ると困る」という理由の占める割合も少なくありません。長期休暇の取得は、企業で働く人にとってはもちろんのこと、国民全体に係わる問題といえるでしょう。
  ここ10年間、都市化、情報化などの著しい進展により私たちの生活環境はずいぶん変化してきました。リストラ、年俸制など労働環境の変化も見逃せません。効率化や合理化と引き替えに、心のゆとりや暮らしの美意識など失われてしまったものも多いのです。
  1900年代の初め、フランスの地下鉄勤労者は「太陽」を求めて有給休暇を獲得しました。地下勤務者の日光不足は、さまざまな病気の原因になると考えられたからです。今日、日本人は、見えない「傘」の下で、「日光」不足になっているといえないでしょうか。私たちは、生活や労働環境の変化の中で、知らず知らずのうちに心身の健康を蝕まれているかもしれないのです。
  現代社会では意識して積極的に長期休暇を取得しなければならないという認識を、私たちは共有していく必要があります。
  長期休暇取得に対する希望は若者にとくに顕著ですから、労働力人口が減少する将来を考えれば、質の良い労働力を確保するためにも企業は積極的に長期休暇を従業員に取得させるようにすべきでしょう。一人でも多くの人が実際に取得していくことによる普及効果はそれなりに大きいと思います。体験してこそ長期休暇の価値を実感することができるでしょうし、他の人の休暇取得に対しても寛容な気持ちが持てるでしょう。「みんなが長期休暇を取りたいと思っているのだから、みんなで長期休暇を取れるように工夫していこうよ」と。社会全体でゆとりを持とうとする意識が、真に豊かな社会の証だと思うのです。

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