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DATUMS 1997.07
市民事業、小規模起業家の時代を意味するSOHO

下田 博次  群馬大学社会情報学部教授

■しもだ ひろつぐ
 1942年愛知県生まれ。66年早稲田大学卒業後、コンピュータ・シンクタンク、雑誌記者などをへて現在群馬大学社会情報学部教授。この間に通産省コミュニティ・ナレッジ研究会委員、青森放送パーソナリティなどをつとめる。著書に『いま労働の豊かさとは』(朝日新聞社)、『リクルート集団主義の研究』(毎日新聞社)等多数。


  米国では、ここ数年SOHO(ソーホーと発音する)という言葉が流行っている。SOHOとはSmall Office Home Officeの略で、小規模な個人事務所や自宅を仕事場にしている人たちを指す言葉だ。転じて小規模な起業家、事業家や在宅勤務者が増えている現象を指す。
  このSOHOという言葉が注目されるのは、それがアメリカ社会の変化を示しているからだ。周知のように米国の産業界はビック・ビジネスを追い求めてきた。しかし今や企業の巨大化競争時代は終わった。規模だけが大きい企業はむしろ疎ましい存在となり、リストラ、スリム化が常識になった。大企業は、人や設備など経営資源を社内に集中することを止め、外部の人材、能力、施設を積極活用するアウトソーシングを進めている。このため米国の新規事業、小規模起業の多くの部分がアウトソーシング・ビジネスとさえ言われている。
  大企業はまた、社員を巨大な建物に収容することを止め、テレワークと呼ばれる勤務スタイルを認め増やそうとしている。それは経営的な思惑もあるが、大都会の交通渋滞や排ガス公害対策など環境問題への対応でもある。SOHOという言葉にはそうした米国産業社会の構造的変化が織り込まれている。
  米国社会の変化と言えば、SOHOではもうひとつ指摘すべきことがある。それは市民事業とか非営利事業といわれる小規模事業の増加現象である。従来の営利企業と違い、地域社会を良くするための事業を、市民自身の視点から行政より効率的に行う組織が社会勢力になっている。SOHOにはこうした非営利事業組織の増加傾向も反映されている。
  実際に小起業家経済という言葉さえ生まれている今日の米国では、SOHOの広がりを示すデータに事欠かない。米連邦小事業局の推計では、1993年に従業員 500人以下のスモール・ビジネスが全米に2000万以上あり、GNPの39%、雇用の3分の2を占めているという。また米国ホームビジネス協会の推計では米国の自宅ビジネスの人口は、88年から96年にかけて77%の伸びを示し4300万人に達したとされている。
  特に小規模起業については女性の起業ケース、とりわけ市民事業と呼ばれる新種のスモールビジネスが急増しているという。ちなみに米国国勢調査局によると、女性がオーナーの企業は92年には 800万になった。
  そうした中で全米女性事業オーナー団体のローラ・ヘンダーソン議長は「私たちの経済は、少数の大企業が支配する形態から多数の小組織単位がますます重要な経済的役割を果たす形態へと移行しつつある」と述べている。小さいがネットワークで機敏に動く効率的起業の時代が来ている。
  反社会的行為を平気でする大企業に支配されているわが国では、ベンチャービジネスも育たず、小企業家経済といえる元気さはないが、女性による起業エネルギーが徐々に高まっているのは米国と同様である。例えばわが国にも女性、とくに雇用市場から外されてきた主婦等の経済的自立を目的にするWWB(Women's World Banking)という組織ができたり、各地の自治体の女性起業支援が増え、生活者としての体験、知識を生かしたさまざまな起業事例が生活・福祉産業を中心に出てきた。これから俗称NPO法案が成立すれば、わが国にもSOHO現象が生まれる可能性は十分にある。

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