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DATUMS 1997.08
経済のボーダレス化と福祉国家のゆくえ
  :HRC (Human Rights Commission)


秋元 孝  近畿日本ツーリスト労働組合中央執行副委員長

■あきもと たかし


  ニュージーランドに人権に関する法律が初めて制定されたのが1977年。『人権委員会:Human Rights Commission 』(以下、HRC)は、その『人権法』に基づき、様々な差別から国民を守ることを目的に同年設立された。年間予算のほとんどは政府からの助成によるが(行革以降も、今のところ減額措置はないとのこと)、独立団体として、政府から活動上の制約を受けることは一切ないとしている。
  人権法によって差別を禁止されている項目は、当初(1)性別 (2)結婚・離婚歴 (3)宗教的信仰 (4)人種 など6種類だったが、規制緩和が進むなか、1993年には新たに(1) 身体的・知的障害 (2) 就業状態 (3) 年齢 (4) 性的志向などが加わり10種類以上へと拡大。既存の項目にもより詳細にわたる規制が付加されることとなった。
  HRCは、これらの国民が持つ権利を市民や企業等に広く理解してもらうため、各種セミナーや相談活動を実施している。事務所はオークランド、クライストチャーチ、ウェリントンの3個所で専従スタッフも総勢約40名と決して大きな組織とは言えないが、マスメディアを媒体とした宣伝活動や約2万人の登録ボランティアの支援による事務所のない地域での学習会の開催等で、フリーダイヤル利用の電話相談を含め、年間約11,000件(1996年実績)もの相談が寄せられているとのことだ。 寄せられる相談の約半数は雇用差別に関するクレームで、特に身体に何らかの障害を持つ人々への差別問題が大きな課題となっており、雇用者・被雇用者双方への教育プログラムには最も力を入れているとのこと。また、問題解決にあたっては公式な査察のもとに双方の調停に入ることはもちろん、改善の見られぬ場合には相談者が再審裁判所に直接提訴できるような支援も行っている。
  その他、車いす利用者(障害者、負傷者)や高齢者等を含むあらゆる人々が利用しやすい公的施設の環境整備にも力点を置いており、規制緩和以降、他国籍企業への売却が進む交通運輸部門のなかでも、特にバス会社へのノウハウ提供やノンステップバスの導入等に関する直接的な働きかけが中心となっているようだ。
  また、近年顕在化しつつあるセクシャル・ハラスメント(男女差別を含む)の問題に対しては、早期教育の必要性から学校への配布用リーフレットを新たに作成するなど、中・長期的な視野にたったプログラムも実施している。こうした多様なプログラムの実施には、分野ごとの専門的な知識が不可欠であり、HRCが様々な職歴を持った専門スタッフで構成されていることは言うまでもない。

  ニュージーランドが、その大胆な行革と規制緩和の断行により、経済改革のモデル国として世界中の関心を集めていることは周知のことだろう。しかし一方で、その成功の影に潜む負の部分、特に医療、福祉、雇用等における不平等の拡大といった社会面での変化が、同国内で大きな問題となってきている状況も見過ごすわけにはいかない。
 HRCでは現在、政府からの唯一の委託事業として、1993年に改正された人権法による差別撤廃の普及状況に関するレポートをまとめている。新しい経済環境のもとで生み出される矛盾に地道に対処しようとするHRCの活動は、裸の規制緩和が進みつつある日本にとっても、人権法の存在とともに大いに注目すべき活動ではないだろうか。

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