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DATUMS 1998.10
観光資源としての商店街

橋爪 紳也  京都精華大学助教授

■はしづめ しんや
 1960年、大阪市生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。建築史学、都市文化論専攻。工学博士。イベント空間、盛り場、商業施設、集客装置に関する歴史的研究と現状分析から、ひろく都市文化を論じる。京都精華大学助教授、同大学創造研究所所長。平成8年度橋本峰雄賞、平成9年度ディスプレイデザイン研究賞大賞受賞。著書に『倶楽部と日本人』『明治の迷宮都市』『にぎわいを創る 近代日本の空間プランナーたち』『大阪モダン』『祝祭の<帝国>』他多数。


商店街と観光
  海外に出向くとき、誰もがその土地独特の賑わいにふれようと地元の商店街を散策する。アメリカの巨大なモール、イスラム都市のバザール、アジア各地で見受ける露店街や夜店など、地域の文化とライフスタイルを反映する商業地がある。彼の地では、ごく当たり前の風景や商習慣が、異邦人の目には、もの珍しくうつる。この日常性の偏差こそが「商店街観光」の魅力である。
  日本にあっても例外ではない。たとえば京都の錦小路、金沢の近江市場、明石の「魚の棚」など、観光ガイドブックにも必ず掲載され、以前より地元客とともに他からの来訪者が、しばしば訪れる商店街が各地にある。共通する特徴は、その土地でしか手にすることができない新鮮かつ独特の食材や品物を扱う、魅力的な個店がならんでいる点だ。少しタイプは異なるが、大阪の道頓堀やアメリカ村、東京の原宿や渋谷なども、大都市観光に欠かせない商業集積である。

●商店街の再生
  もっとも従来は、多くの商店街には観光客誘致という発想はなかった。近傍から集まる日常的な買い物客こそが、大切な顧客であった。
  ところが、状況が変わってきた。衰退しつつある商店街を積極的に再生させる方策として、観光振興が各地で検討されるようになったのだ。近年、歴史のある商店街でも、大型スーパーの進出、あるいはディスカウントストアーやコンビニに客を奪われ、空店舗が増えるところが少なくない。いわゆる空洞化が顕著になった。そこで観光地という魅力を付加しようという動きが見受けられるようになったのである。
  その典型が、境港駅前の商店街であろう。地元出身の漫画家水木しげる氏の作品「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪たちの像を沿道に設置、一躍、観光地として名を馳せた。
あるいは周辺部に新しい集客装置ができることで活性化する事例もある。隣接する北国街道沿いに、ガラス製品のギャラリーや工房ができた長浜では、商店街にも客が戻ったという。キャナルシティ博多の開業によって、ホテル群と歓楽街とを経由するルートとなり、観光客にも注目された福岡の川端商店街などもその好例だろう。

●「競争の時代」における戦略として
  大型店に関する規制が緩み、今後、スーパーとの競合が厳しくなる。また生き残りをかけた商店街同士の競争も激しくなることだろう。そこにあって、戦略的に、観光客への目配りを重視する事例も増えてくると考えられる。
  以下、関西にあって、注目されている試みを、いくつか記しておこう。たとえば大手筋をはじめとする京都・伏見の各商店街では、京都府、京都市の支援のもと、観光振興を視野に入れた振興策を検討している。当地には寺田屋をはじめ、幕末の動乱を伝える史跡がある。また酒蔵を転用したレストランも多い。水路や散策路を整備して回遊ルートをうまく設定し、情報発信ができれば、有数の観光地となる条件を備えている。行政や地元企業と協調しつつ商店街も主体の一翼となって、その可能性を模索している点が注目される。
  あるいは大阪の天神橋筋商店街でも、観光客を呼びこもうと、地域の魅力づくりを始めている。地域にある文化的な遺産を護ろうという「町街(まちがい)トラスト」や、一日丁稚体験、大阪弁スクールなど、事業アイデアは盛りだくさんだ。
  すでに独自の事業を展開しているケースとして、紹介したいのは映画撮影所が集まる京都・太泰にある大映通りである。ここでは空店舗を改造、かつての名画を上映する活動写真館とするなど、商店街名の由来であり、地域の誇りでもある映画文化をテーマに選んだ。話題づくりとともに、映画村や広隆寺を訪れる観光客を引き入れようという考えである。
  三者に共通しているのは、商店街が自分たちだけの利益を考えるのではなく、地域のことを考え、界隈への集客を試みようとしている点である。従来のように商店街の振興だけを思っていては、街の魅力は減衰するいっぽうである。地域への観光客が増えることで、街のイメージも好転し、従来にない客層が訪れる。結果的に商店街も潤うことになる。地域と商店街との共生・共栄をはかろうとする発想が背景となって、商店街の振興策に観光という要素がこれまで以上に取りこまれつつあるようだ。

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