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DATUMS 1998.12
元気でなければ中小企業ではない

中沢 孝夫  経済評論家

■なかざわ たかお
 1944年生まれ。全逓労組中央本部を経たあと、立教大学法学部を卒業しフリーランス。著書に最新刊の『中小企業新時代』(岩波新書)をはじめ、『起業家新時代』『良質な社会と自己訂正能力』『働きものたちの同時代』など。


  暮れになるとおさだまりのマスコミ報道がある。それは中小企業の経営者が従業員へのボーナスや取引先への支払いで青息吐息といった街の表情である。「男はつらいよ」に登場するタコ社長のような存在が新聞やテレビに登場するのである。貸し渋りが伝えられる今年の場合はなおさらだろう。大企業でも資金繰りに困っているのだから、ましてや中小企業は……とこういう構図である。
  しかしそれは半分の真実でしかない。先進資本主義国の場合は世界中どこの国でも似たようなものだが、日本もまた存在する企業の99パーセントは中小企業であるので、数だけみれば「困っているのは圧倒的に中小企業」ということになるのである。
  企業の倒産件数はここ10年で最悪で、そのほとんどは中小企業である、などと伝えられもするが、だからといっていちいち悲しんだり義憤にかられたりしてもしかたがないのが実際だ。筆者の聞き取り調査の経験では「業況が悪い」という事態を前にして「困った」といって立ち止まっている経営者はいない。みなそれをどう克服するかを課題としているのである。
  特に家電製品や自動車部品の加工などを手がけている会社の場合、加工賃が下がり大変ではあるのだが、当然にしてコストダウンの努力もおこなっており、「困った」ところで話が終わっていては飯の食い上げとなってしまう。
  たとえばISO(国際標準化機構)の9000シリーズの認証の取得状況などをみていると、日本は現在年間で5000件を超えているが、そのほとんどは当然のことながら中小企業である。ISOの認証を取得するということは、つまりその会社の技術や工程が客観的であり、世界水準として普遍性があるということが証明されることになる。
  先日も筆者は都下の瑞穂町にある山本精機という、航空機部品の製造をしている会社でISO9002の獲得をきめ、それを実現するまでの経過を取材したが、目標を決めてから9ヵ月で取得しており、品質管理も工程管理も大企業並みの実力があることが証明されている。 もともと日本の企業の品質管理の厳しさは世界的にも「過剰」ではないかと指摘されるほど徹底されているので、日本で30年、40年と生き延びてきた会社は、それだけで「優秀」といってもまちがいではないのである。
  山本精機は50人ほどの規模の会社だが、航空機部品のほか、航空機の整備用の治具や工具も作っており、最近では米国のメーカーからも問い合わせがきたりしている。注文が山積していて、残業や日曜出勤でこなしているが、以前だと管理職が残業や休日出勤を従業員に頼むのも大変だったが、最近は仕事の流れをみて各自が自主的に、残業や休日出勤を決めるようになったと、工場長たちは喜んでいた。
  もちろん残業するほど仕事があるというのは、現在、恵まれている部類かもしれないが、それも実力のうちなのである。しかしあちこちを歩いていると「世の中全体は大変なようですが、おかげさまで当社の場合は……」と答えが返ってくることが多いものだ。
  また悪い悪い……という人も、「これまでで最悪という説があるが」と質すと、「いやあ第一次オイル・ショックのあとのほうがきつかったねえ」と、思い出すのが一般的だ。
悪いは金融とゼネコン、そしてその関連である。彼らの声の大きさが、全体を湿らせている。個人消費が伸びないのもそのせいであって、サービス、小売など消費関連産業が辛いのもそのせいだ。元気のある会社は山ほど存在する。

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