[BACK]
DATUMS 1998.02
競争時代の心のゆくえ

深澤 純子  (財)安田生命社会事業団・ヒューマンサービスセンター

■ふかざわ じゅんこ
 1951年横浜生まれ。多摩美術大学卒業後、同大助手を勤める。89年より現職。同センターでは、心の悩みを聞く相談と、アートによる自分解放の場づくりを行なう。最近の傾向は20代、30代が多いことと男性が増えていること。個人的な活動として、女性とアートについての研究と実践を行なっている。


  12月20日、東京・池袋で「競争時代の心のゆくえ――男と女の心のサポートは?」というシンポジウムを行った。当日はこの催しを新聞記事で知った人々も含め、会場いっぱいの約100人参加者があった。
  このイベントは、医療と福祉制度のケアの枠からこぼれてしまう個人の悩みや人間関係のトラブルについての相談室の必要性を考えるものであった。それというのも、私が所属している「無料で無名で、2時間の面接相談を行う」ヒューマンサービスセンターという企業財団の社会貢献活動による相談室(カウンセリング・ルーム)が、運営母体である財団の都合で閉鎖されることになってしまったからだ。
  運営主体の危機による「閉鎖」が今日の運命なら、そのシステムを社会的に有用と思う人間が集まって、理念を継承していく場を主体的に作るというのが次のステージだろう。現在多数の方の力を借りながらNPO型で起業しようと検討しているところである。幸い財団は自立資金を用意してくれた。この資金を小規模ながら基金として、大小の寄付や助成金を束ね、また物理的、人的支援を集めたいと思っている。
  「無料、無名――身分も所属も問わない――で利用できる」、すなわち相談当事者から直接相談料をとらない、ということは運営費を払う主体とサービスの受け手が違うということである。これにはどのような意味があるだろうか。
  社会の閉塞による絶え間ないストレス、混迷による不安、複雑な状況に置かれることにより孤立感を感じている人々、また思いもかけない事件やトラブルに家族や本人が巻き込まれ精神的なダメージを受けることも増加している。
  11年間のヒューマンサービスセンターでの実績でも、最近は「自分の生き方」についての相談件数が「家庭・家族に関する相談」を上回るようになった。アイデンティティ、仕事、人とどういう関係を持ちたいか、家族の歴史に深く根ざす問題、周囲との違和感を感じ続ける自分……等々、当然のことながら、そのような内省的な問題についてひとつの正解があるわけでもなく、解決というゴールがあるわけでもない。
  職場環境を例にとっても、立場の違いや相手に負担をかけることへの遠慮もあって、手放しで語れる相手は少ないし、また家庭の問題なども相談しにくいものである。一方そのような社会状況を背景に心理療法やカウンセリングを利用する人が増えているが、長期にわたって利用するには相談料の負担が大きく経済的に弱い立場におかれている人にはきわめて敷居が高いという現実がある。
  精神的な自立は、経済的自立と密接な関係があるが、生活のために、仕事の内容や質、労働条件、通勤の負担、競争、職場の人間関係によって生ずる相当のストレスに耐えなければならず、その重圧は女性にも男性にも年齢にも関係なくのしかかる。ストレスが原因で心身の不調におちいったり、ペースが乱れると、生活基盤も失うという危機は誰にもふりかかる可能性がある。これまでの経験からみても、精神的に大きな抑圧をかかえている人は大抵経済的にも困難な状況にある。
  心おきなく話すことで、苦しみがやわらぐことや、他人のちょっとした意見が出口を見いだすのきっかけになることは誰でも気づいていることであろう。「自分の力で解決したい」というのは個の成熟であるともいえる。とことん考えたいという人たちがふえているということだ。またそのようなものが集える場を作り、学びあい、気づき合うことの充実感は何にもかえがたい喜びである。
 さてみなさんは生きる上の悩みや苦しみをかかえたときどこに相談にいきますか?

[BACK]