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DATUMS 1998.03
ゆらぐ中高年…

黒木 美芳  人事教育コンサルタント

■くろき みよし
 1937年生まれ。早稲田大学卒業後、赤井電機(株)に入社。74年(株)クロキアンドアソシエイツを設立。現在代表。社会形成販社講師、産能大学マネジメントスクール講師、SBCその他研修企業の講師。社員の能力開発研修や人事に関する調査、設計、指導を行なう。


<営業所長になって>
  中堅食品商社に勤めるSさんは認められて営業所長に昇進、今では8人の部下を持つ立派な管理職です。個性豊かな部下を管理統率、自らも担当先を持って業績を上げてきました。が、最近様子が違うのです。不況のせいか部下の能力不足のせいか、なかなか成果が上がらないのです。これまでは部下の売上げ未達成分も何とか自分でカバーしてきましたが、最近では自分の数字を確保するのが精一杯です。会社からはヤンヤ言われるし、部下からはこぼされる毎日です。
  会社は次々に施策を打ち出すのですが、市場の反応はありません。とうとう会社は体勢固めが優先と『目標管理制度』を導入したのです。営業各人に販売目標を持たせ確実に達成させるという管理システムです。不良債権償却を急ぐ会社から出される数字は驚くほど高いのです。所長のSさんは目標管理の正しい進め方に従い、部下との目標設定の話合いに時間をかけました。部下は言います「こんな数字受けられません」「所長はできると思っているんですか」「会社は何もわかっていないんだから」Sさんには部下の憤懣も叫びも痛いほどわかります。部下以上に自分がそう言いたい気持ちです。しかし「そこを説得するのが所長の役目ではないか」と決めつける部長の顔が目に浮かびます。 

<実力主義にのって>
  目標管理の定着を見る間もなく、会社は年俸制を導入しました。働きや成果に応じた報酬を事前に決めておくという制度です。年俸契約をする若手社員が出てきました。中高年社員はこれまでの給与制度の長所を訴えます。組織の活性化を狙って、会社はいろいろ新しい制度を導入するのですが、残念ながら部下の心はばらばらになるばかりです。Sさんは決意をしました。苦労の多い管理職を降りて営業専門職でいくことを。自分の働きが年俸としてはっきりするのが魅力でした。 
  年末になってSさんの会社は資金繰りがつかず会社更生法を申請したのです。恨めしい銀行の貸し渋りです。自分の担当の仕事はうまく回っているのにどこかが狂っていると嘆かずにはいられませんでした。 

<これからどうする>
  社員は皆得意先へのお詫びでてんてこまい。就職先も探さなければなりません。家族の不安は極限です。Sさんも高校生の2人の息子を抱えて悩みました。会社に来ている求人先を見ると、食品商社で営業経験を積んだ人材を求むとあります。「能力を評価し実力に報います」とあるのです。がSさんにはショックでした、ヤッパリそうかとの思いでした。どの求人先も「35歳以下」と特記してあるのです。35歳以上の人には能力も実力も無いのでしょうか。実力主義をうたう企業の正体を見た思いです。
  しかし、Sさんはへこたれません。専門職につく前にある教育会社の『人生再決断研修』を受けていたのです。迷いはありません。自分の今後はつぎの選択肢から選ぶだけと決めているからです。――(1) いまの会社が更生するまでこのまま頑張る (2) 多少給料が低くなってもいい、転職先を探す (3) 営業力を生かして小さな会社を始める
Sさんはつぶやきました。「世の中の変化や流れに対応することも確かに自分の意志による行動だが、流されていることには変わりがない。自らの責任の下に自分の流れを作り出すことこそ迷わぬ自己(主体的自己)を作ることだ」。

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