[BACK]
DATUMS 1998.04
サービスデリバリーという概念

金子 仁久  コンサルティング・オフィス・フォーメイション代表

■かねこ よしひさ
 1960年帝国ホテル入社 宴会、レストラン部門に25年間勤務。その後、ホテルエドモント開業計画、日本コンサルタントグループ経営コンサルタントを経て、88年ホテル、レストランの評価、評論、戦略活動のフォーメイション代表、現在に至る。価値創造的商品LA CAVE WINE-CELLAR SYSTEMは、現在のワインブームを予見したものとして高い評価を得ている。


  夢を実現する事柄か、否かを判断基準とすれば、婚礼は本人にとって現実であり、葬送は夢の世界である。ビジネスとしての婚礼産業は夢に近い感覚で商品を構築提供してきた。今、ホテルの婚礼件数と単価、客数が減少し、売上げにおおきな影響を及ぼしている。ライフサイクルのない商品として、日本のホテル産業の売上げの大きな部分を占有、構成される婚礼の売上げに大きな変化がおきている。この事はホテルで働く人々にとっても無視できる問題ではない。
  なぜこのような事が起きているのか……。整理の仕方はいくつかある。
ひとつは商品が構築されてきた歴史とそのプロセスを振り返り、整合性を検討してみるという考え方だ。ホテル業はハード面では資本集約的であり、ソフト面では労働集約的で二面性というより、複合的な事業と表現した方が適切だ。
  従来の市場はアグリゲーションとして捉えておけば問題はなかった。このアグリゲーション・マーケットにコストプラスという価格設定方式で商品供給が行われた。一種の供給者主導の論理だ。ここでは最大公約数的な「一生に一度」とか情緒的な感覚を想起させる消費喚起が行われる。結果として重装備を必要とする装置産業が成立し、ハード主導の商品づくりが成立し現在に至る。今盛んな、チャペル投資などもその系譜を引きずっている。ここでは供給をみる場合、当然施設の供給増加が問題となり論議される。
  さる地方の政令指定都市を参考にしてみるとここ10年間位、市役所に届けられる婚姻届数は1万5千件で推移しているが、ホテルでの披露宴の挙式は30--35%減少している。市場が縮小していると言ってよい。主要な原因はハード投資の価格転化を市場が認めなくなってきていると解釈するのが妥当だ。注目は、この状況の中で婚礼件数を伸ばすホテルである。世界遺産に匹敵する歴史的建造物をみるにつけ、いつの時代もハードに対するあこがれは生きていると思う。
  婚礼件数が減少するということは、マーケットの対象を転換するということで論議されているのが、フューナラル市場である。しかし、どのマーケットを選択するにせよ、ハード系譜で事業を行う場合、コストプラスで初年度総資本回転 1 の水準まで到達しないと経営としては無理が生じる。現在はよくて0.5 であるのでハード系譜の商品構築の考え方は極めて狭い市場にしか適用しない。だれもが同じ価値観でマーケット消費をするという考え方は通用しない時代なのだ。
  アグリゲーションに単一形態の商品ではだめなのである。市場を細分化してそこに適切な価値のある商品を投入するということが問われている。重装備施設が合わないというのではない。アグリゲーションと思っていたマーケットが変化しているのだ。だから、市場が求める価値と価格をいかに適応していくかということは、概念的にはハードからソフトに移行した商品構築がまさに今要求されているのだ。価格設定において、コストプラスから市場価格への移行である。
  ここでは、コストプラスで設定された再生産費も荒波に翻弄されている。いやだと言ってもだめなのである。逃避してはいけない。ソフトで商品を構築してゆくということは、市場の価値を見つけて需要を創造する今まで、ハード系譜のらち外であったライフステージに、いかなる商品を提供できるかが事業としての分かれ目となる。
  ホテル業は歴史的にみても、多分に人的資産、ソフト力を持ち合わせている。この潜在力量を発揮できるかどうかが経営の腕であり、単にリストラで人件費を削減すればよいというものでもない。
  それには、ハードに縛られた商品展開から、ソフトで磨き上げた商品への大きな転換が必要だ。その意味でハード産業から、人間産業への転換が事業の成否を決める大きな要素になるだろう。
  葬送もビジネスとしては、人間産業の 1 ステージとして、多彩なホテル品質のサービスデリバリーの範疇にはいるのではないか。

[BACK]