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DATUMS 1998.05
“本と森の交換”で、“本の街”をつくる

吉津 耕一  たもかく株式会社社長

■きつ こういち
 1953年、福島県只見町生まれ。75年農園民宿「北国の森」開業。81年只見木材加工協同組合に就職。85年伝統民家の再生リフォーム事業を開始。88年たもかく株式会社を設立し、土地つき緑のオーナー制度、グリーンパスポートなど都市との交流に取り組む。94年本と森の交換事業開始、本の街オープン。現在只見木材加工協同組合理事長を兼任。


  毎日毎日、ダンボール箱で15箱から20箱の本が日本中から送られてくる。平均して1日に1000冊、年間では35万冊から40万冊の本が送られてくる。“あなたの本を只見の森と交換します”というキャッチフレーズではじめたこの仕事も丸4年が過ぎ、のべ2万人の人から約140万冊の本が送られてきて、交換した森の面積も4万坪以上になった。
  集めた本は“本の店”というウッディハウスの店舗で販売しているが、送られてきた本の約3分の1が売れ、年間の売り上げは3000万円近い。すぐには売れない本、今売ってしまうのはもったいない本を収蔵しておく倉庫も新築5棟、中古3棟、貸車8輌に満杯状態だ。検品、整理、販売のスタッフも常時6名でてんやわんやの状態だ。
  本は読み終わってもなかなか捨てられない。新聞や雑誌なら読み捨てにもできるが、本となると読まなくなっても捨てられない。東京の一坪当たりにすれば数百万円のマンションや住宅に住んでいて、古本屋に持って行ってもせいぜい数万円にしかならない本に、数坪分のスペースをさいている人がたくさんいるにちがいない。
  一方で田舎の側には、ただ放置されていて利用されていない広大な山林がある。都会の人たちが自然にふれ、山菜やキノコを採ったりして遊ぶには最適の空間なのに、これまでは木材を生産するという価値観でしか山林をとらえていなかった。
  都会の人が読まなくなっても捨てられないでいる本と、田舎の人たちが何の利用もせずに放置している森を交換できれば、本も森も再利用され、田舎には新しい仕事と文化が生まれ、都会の人たちは自分の森と自然にふれ合う機会を手に入れることができる。そんな風に考えてはじめたのだが、予想をはるかに上回る反響が続いている。
  何よりもうれしいのはこの仕事を通じてたくさんの人と知り合いになり、応援してくれる人が増えたことだ。
  もともと、わたしの経営するたもかく株式会社は10年ほど前から都会の人たちの田舎暮らしを受け入れ、田舎にセカンドハウスの建築や販売、都会の人たちが遊べる森の提供を目的に設立したのだが、この“本と森の交換”をはじめたことで知名度はグンと上がり、お客さんの層も格段に広がった。
  平成9年からは、岩手県藤沢町の第三セクター「いわて藤沢」と提携して“本とりんごの交換”もはじめた。「たもかく」に本を送ってくれると「いわて藤沢」から、本の代金に応じてリンゴが直送されるしくみだ。そして藤沢町の図書館が「たもかく」から本を買ってくれる。これも初年度から大反響があり、図書館の図書購入予算を上回ってしまったほどだ。
  平成10年からは、東京新宿で日本全国の人から出資を募って運営されている交流居酒屋「新浪漫亭」と提携して“本と宴の交換”もはじめる。本を一冊持って行くと、その本の定価の10%だけ飲食代が安くなるというものだ。集めた本はたもかく“本の街”で再利用する。これも「新浪漫亭」の集客や酒席の楽しい話題作りになればと考えている。
  とにかくこれからも、都市と田舎の交流を本と森に関わりながら、仕事として展開していきたい。

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